「♪村さ、めでたい狐の嫁入り、しかし年だと、初夜きりやらずの小ぶりの夫、嫁は涙ぁ見せるも、つゆ知らず、あられに思しグレ虎が、夜のじうじに夜這いをかけて、肘がさ脚まで模様さ乱れ、通りかかった夫が見ぞれ、ついり別れを言うだちた」
 ノググが一曲歌いきると、大勢から大きな拍手が送られた。バチバチと土に弾ける勢いを増した雨ほど彼にとってありがたい観客はいなかった。
 気分を良くして、さぁもう一曲と思ったところでノググに影が近づいた。
「やぁ、貴方はお初にお目にかかるヤモリだね。名前はなんていうんだい?」
「私はカルツ。君の歌声は素晴らしいね」
 カルツは年季の入った尻尾をゆったりと振った。
「ありがとう。早速だけどもう一曲聴いてくれるかい?」
「せっかくだからコーラスで聞いたみたいもんだね。それだけいい声が出せるんだ。きっと美しいと思うよ」
 カルツがウットリとそう言うと、ノググはつまらなそうに喉を膨らませた。
「何を言うんだ、爺さん。俺の歌声はソロだから映えるんだぜ」
「それは間違っとるよ。蛙は輪唱こそが一番美しい。君はそんなことも知らないのかね?」
 ノググは顔を真っ赤にさせて
「おいおい、随分な口ぶりだな。俺が何を知らないって? 俺は何でも知ってるよ。大きな海って地球が丸いことだってね」
「だとしたら、それは勘違いだ」
と、年老いたイモリはニヤリと笑った。