「どうしてですか?」

その意味がわからなくて聞き返したら、
「あの時は大変だったねって笑いあって、思い出にすることができますから」

副社長が答えた。

「思い出ですか」

「少しずつでいいから、一緒に作りたいと思ってます」

「えっ…?」

そう言った副社長に、ドキッ…と、私の心臓が鳴った。

一緒に作りたいって…私と、ですか?

そう聞こうと思って口を開いたら、
「こっちに行くと、また濡れてしまいますよ」

副社長の手が私の肩に置かれて、彼の方へと引き寄せられた。

「――ッ…」

副社長との距離が近過ぎて、どうすればいいのかわからない。

顔を拭いていた時よりも近い距離に、戸惑うことしかできない。