東京恋愛専科~または恋は言ってみりゃボディブロー~

「あの、名前の方をおうかがいしてもよろしいでしょうか?」

そう聞いてきた老人に、
「名前、ですか?」

私は聞き返した。

「あなたのような心優しい親切なお方の名前を心に刻みたくて」

老人はエヘヘとはにかんだように笑った。

「そ、そうですか…」

親切って、私はそんなつもりはないんだけどな…。

そう思いながら、
「桜井つづりです」

私は自分の名前を言った。

「桜井さんですね。

ありがとうございました、ではまた」

「はい」

老人はヒラヒラと手を振りながら、改札の方へと向かって行った。

私はペコリと頭を下げて、彼を見送った。

老人がホームの方に行ったことを確認すると、私は駅を後にした。