ナオは大学卒業と同時に大手証券会社に就職をしたのだが、メイクアップアーティストになる夢をあきらめたくないと言う理由で去年の秋に退職をした。

今年の春に専門学校に入学をした彼は、自分の夢に向かって活動をしている…と言う訳である。

せっかく内定をもらって就職をした大手企業を退職したと言う話を聞いた時は、何でそんなもったいないことを…と思ったが、夢に向かって一生懸命奮闘しているナオの姿に私は彼の夢を応援することを選んだ。

ずっとなりたいって言ってたから知ってるしね。

「でもナオみたいな容姿だったら、男受け間違いなしじゃん」

私はそう言うと、ベイクドチーズケーキを口に入れた。

ゆるくウェーブがかかったピンクベージュのショートカットに、二重の大きな目、長いまつ毛にベビーピンクのプルプルの唇――元から中性的な容姿をしていることも手伝ってか、どこからどう見ても女性である。

こんな容姿に女性らしいしゃべり方と仕草、服装も少し前に流行していた“森ガール”と言う感じの服装で、まさに女性なのに…恋愛の対象は女性である。

…何かもったいない。

対する私は腰近くまであるストレートの黒髪に一重の切れ長の目…と、自分で言うのもあれだが平凡な顔立ちをしているなと思う。