「はい、またよろしくお願いします」

そう言って取引先の会社を出て行くと、沈みかけの太陽が辺りを降り注いでいた。

もう夕方だと言うのに、まだ暑かった。

シャツの胸ポケットからスマートフォンを取り出して、着信の確認をした。

「きてないか…」

まだ仕事をしているのだろうか?

「つづりさん、大丈夫かな…」

あんな噂が流れてしまっている以上、彼女が大丈夫でいられる訳がない。

社長――父親に頼んで噂を否定してもらうように頼んだけれど、本当のところは俺がそうしたかった。

「何でこんな時に限って、大切な仕事が入っているんだろう…」

大切なその仕事を投げ出して彼女のところに行きたかったけど、仮にも俺は上に立っている人間だ。

自分の勝手で、そんなことをする訳にはいかない。