東京恋愛専科~または恋は言ってみりゃボディブロー~

「樫尾さん」

副社長に声をかけてきたのはバーテンダーだった。

「村坂さんもいろいろあったみたいなので、今日のところはこれくらいで勘弁してくださいね」

申し訳ないと言うように声をかけてきたバーテンダーに、
「…まあ、ハヤテくんがそこまで言うなら」

副社長は呟くように返事をすると、やれやれと息を吐いた。

「ああ、すみません」

腕の中にいる私に視線を向けた副社長は謝ると、私から慌てて離れた。

「あっ、はい…」

返事をした私に気づいているのかはよくわからないけれど、副社長は椅子に腰を下ろすとテーブルのうえのカクテルに手を伸ばした。

グラスは水滴だらけで、テーブルのうえには水たまりができていた。

「新しいのをお作りしましょうか?」

バーテンダーはそう声をかけたけれど、
「いいよ、大丈夫だよ」

副社長は笑いかけると、グラスに口をつけた。