「えーっ、『お菊の皿』ですか…」

あの「いちま~い、に~ま~い…」とかって言う話だよね?

それに怪談はあんまり得意じゃないんだよね…。

そう思っていたら、
「大丈夫だ、怖くはない」

村坂さんはそう言って舞台の方に視線を向けたので、私も向けた。

彼の言う通り、怪談と言っていたわりには怖くなかった。

村坂さんが笑っている隣で、私も一緒になって笑った。

その後は落語はもちろんのこと、芸人の漫才や漫談も楽しんだ。

時間はあっと言う間に閉演を迎えたので、私たちは寄席小屋を後にした。

「あーっ、やっぱり落語はいいなー」

寄席小屋を出るなり、村坂さんはそう言った。

その顔はとても満足そうで、数日前のひどく落ち込んでいた顔からは想像もできなかった。