元々忙しいポンちゃんは現在、就活真っ最中でさらに忙しい毎日を送ってる。
会えばスーツだったりすることが増えた。
あたしもそろそろ、と思ってるんだけど、なかなか動き出せずにいる。

幼なじみのポンちゃん。
いつだって一緒だったのにもうそうではいられないくらいあたし達も大人になったっていうことを考えさせられる。

小学生の時も中学生の時も高校生の時も家に帰ればポンちゃんと会っていたのに今はそうじゃなくなって、互いの将来の道を探してる。

「ポンちゃんに会ってないな…」

口に出してしまうとやっぱり寂しくて、明日は少し早く起きよう!起きてポンちゃんと話そう!と決めて部屋を出た。

「お前、遅い!」

玄関を出ると黒のビッグスクーターに跨って時計を見ながらイライラしているミノルがあたしを睨んだ。
だからその顔怖いんだって!と内心ビビりながらもメットを受け取って、随分乗りなれたバイクに跨る。
あたしがメットを被って、ミノルの服を掴んだのを確認すると「行くぞ」とゆっくりと走り出す。

ミノルの運転は常に安全運転だ。
遅い!なんてあたしを急かすくせに絶対バイクはとばさない。
法定速度なんじゃないの?!ってくらいゆっくり走ってくれる。
急発進するときみたいに体が後ろに引かれたりすることもないし、急停車だってしたことない。

普段の走り方を知らないからなんとも言えないけど、あたし以外の女の子を乗せるときもこうやってゆっくり走ってるんだろうか、と思ってしまう。

「ねぇ」

信号で止まったとき、あたしはミノルの服を引っ張って呼ぶと「なんだ?」振り向いた。

「いつもこんなに安全運転なの?」
「お前、毎日後ろに乗っててそれを聞くのか?」

あたしの質問にミノルは呆れたようにそう言って、また前を向いてしまった。
それと同時に信号が変わって、また走り出す。

今だって、後ろにくんってなることなくゆっくりと動く。
それってきっと気を使わなきゃ出来ないことで、きっと一人だったらしないことだと思う。

ポンちゃんは急いでいるときは常に急発進だった。
「燃費が悪くなるよ」と言えば「じゃあ早く起きてきて」と言われてことが何度となくある。

「女の子を乗せるときは安全運転なの?」

次の信号で止まったとき、あたしはもう一度ミノルに聞いてみた。
「どういう意味だ?」と聞かれて、思っていたことを迷うことなく口にした。

「だってあたしを急かす割にはゆっくり走るじゃん」

そういうとミノルは「だから?」と言った。

「おかげでバイクにも慣れたし少しくらい引っ張られても大丈夫なのに。ポンちゃんはいつも急発進の急停車だったから、どうしてゆっくり走るのか不思議でしょうがない」
「これで遅刻したことないだろ」
「うん、でも他の女の子乗せたりするときもこうなのかな?って思って」
「はぁ?」
「だってそうじゃん。あたし以外にも女の子はたくさんいるわけだし彼女がいたっておかしくないじゃん」
「誰に彼女?」
「あんたしかいないじゃん」

他に誰がいんの?と目で訴えると盛大な溜息を吐かれてしまった。
だけどその後にはクスクス笑い始めて、正直気持ち悪いと思ってしまった。

何を思ってるのかわからないけど、あたしは「なに笑ってんのよ」としか言えなかった。