話しかける相手が實で、顔を上げれば實がいる。
眠るまで傍にいられて、目が覚めても實がいる。
そんなことが幸せなんだって感じていたけど、今は少し違って、これからもずっと傍にいたいと強く想う。
いつでも触れたいときに触れられて話したいときに傍に寄り添える。
鬱陶しいってわかってても傍にいたいときに近くにいられること。
きっと今のあたしにとってそれが究極の幸せになるんじゃないかって。
實はきっとあたしがそう思ってるなんて想像もしていないだろう。
そして、こんなに暑苦しい女だってことも。
恋とは、独占欲とは、本当に恐ろしい。
傍にいられるだけで満たされるような感情だったらよかったのに。
「唯、お腹空いてないのか?」
無意識にお箸が止まっていて、實は肩肘ついてあたしを見てた。
正直な気持ちを言えたらスッキリするだろうけど、ワガママって言われそうだから「なんでもなーい!」と白ご飯を口に入れた。
ダメ、こんな風になってはいけない!!
気持ちを切り替えていかないと實が変に思っちゃう。
「實の作ったご飯はいつも美味しいね」ってパクパク食べる。
物事にはタイミングってもんがある。
それが今じゃないだけ。
気を逸らすためにどんどん口に入れ続けて、「落ち着いて食えよ」と言われた瞬間に喉に詰まらせて咳き込んだ。
「…焦って食うなって。ちゃんと送って帰るからゆっくり食べろ」
ゴッホゴッホと咳払いをするあたしの背中をさすり、少し落ち着いてからお茶を差し出してくれたけど、それは断った。
久しぶりに詰まらせてしんどくて呼吸も辛くて、それに加えて感情がいっぱいいっぱいで涙が出た。
「泣くほどしんどかったのか」
呆れた声が聞こえる。
またダメ彼女炸裂してる。
どう頑張ったってあたしが想像する理想の彼女にはなれない。
だって最初からそのスキルがない。
だったらもうありのままでいくしかないじゃない。
今までしたことないくせにあたしの涙を拭ったりしてるから、その手を掴んでギュッと握った。
「あたしは聞き分けのいい彼女にはなれない。大人しく、大人らしくなんてなれない。我儘も全部は抑えられない。好きだって思ったら、触りたいって思ったら、傍にいたいって思ったら全部行動に出しちゃう。全部は實が鬱陶しがるってわかってる。でも一緒にいたいんだもん。なれない、我慢なんてしたことないんだもん」
ゴホッと咳が出て、涙が止まらなくて、實の顔も見れなくて、両手で顔を覆うしかなくなった。
きっと今までポンちゃんに言った我儘なんて比べものにならないくらいの我儘を言ってる。
自分でわかってる。
きっと實は最高に困ってる。
ひとしきり泣いて、抑えてた感情を吐き出してスッキリして、涙を拭いて、長く息を吐き出した。
結構長く泣いていたと思うけど、その間に實からの反応がなかった。
触れられることも声を掛けられることもなくて、想像通りの反応だった。
ポンちゃんだったら部屋を出て行って、泣き止んで静かになった頃にジュースを持ってきてくれたりしたけど、實はこんな風になるあたしとは初対面だから戸惑ってるか鬱陶しいか、怒ってるかもしれない。
泣きじゃくったブサイクな顔を再び見せるのは少し抵抗があるけど、ゆっくりと顔をあげるとテーブルに突っ伏した實がいた。
片手が上がっていて、その手に触れるとぎゅっと握られた。
「實?ごめんね。泣いて、我儘言って迷惑かけちゃった。言いたいこと言ったらスッキリしちゃった!ごめんね、ちゃんと帰るから送ってくれる?」
突っ伏したままの實は手を握ったまま、まだ動かない。
何か考えてるんだろう。
握られた手を親指で撫でる。
實の大きな手。
あたしの手を包み込んでくれる大好きな手。
誰よりも離したくない手。



