「遅刻魔だっただろ」
「それ大学の時の話でしょ?」
「今も変わらずよく寝るな」
「眠いんだよね〜毎日」
「おかけで俺もよく寝るけどな」
「超ショートスリーパーだもんねぇ」
どうでもいい話をしながら笑いながらドライヤーに伸びてくる手を跳ね除けると、その手を掴まれて後ろから抱きしめられた。
「...髪ぬれてるよ」
「知ってる」
「...服ぬれちゃうよ」
「知ってる」
「...ちょっと、ドキドキするんだけど」
恋人になって昨日の今日だから?
男の人だって意識していたのはずっと前からなのに、ハグだってキスだって初めて会った時にしてるはずなのに、こんなにもドキドキする。
それは多分、實が今まで以上に甘いからだ。
「ドキドキ大いに結構。もっと意識してくれていいぞ」
顔は見えないけど、抱きしめてくれる腕が強くなる。
きゅゅゅうっとなってドキドキが心地いい。
もっと触れたくなってしまう。
掴んでた腕に頬をぎゅっと寄せる。
「悠穂にもした?」
「え?」
「こういうの」
ふぅ〜と長い息を吐きながら、あたしの頭の上に顎を乗せた實が小さい声で言った。
「ポンちゃんにはしてないよ」
「ふーん」
「え、なに?」
「他の男には?」
「多分、してない」
「なんで?」
「あんまりベタベタして鬱陶しいと思われたくなかったから...」
「ふーん」
「なに?どうしたの?」
急な質問攻めの意図がわからずとりあえず答えてみるけど、返事は素っ気ない。
それにあたしの質問に全然答えない。
もう諦めるしかないらしい。
腕から頬を離して、ドライヤーを返そうとしたとき、「甘やかしたいだけだと思う」と本当に小さく呟いた。
「え?もう1回」
「は?」
「は?じゃないよ。声がちっちゃいんだよー」
「・・・」
「え?嘘でしょ」
黙ったままの實を振り返って見ると仏頂面。
なかなか見ない表情でちょっと面白い。
「甘やかしたいって、もう充分だよ」
面白さに負けて、あたしから話すと次は盛大な溜息を吐いた。
「...別に気にしてるわけじゃないけど」
「うん」
「歴代彼氏にどんな風に甘えてきたのか知りたくもないけど」
「うん」
どんな表情で話してるんだろう。
すごく気になって向かい合おうとしたら、後ろから足というか膝で止められた。
「他の男はどうでもいいけど、悠穂だけは特別だし、見てたから。お前が全力で気を許して甘えて、ウザいくらいくっついていても、それを可愛がってた悠穂を間近で見てたから、どうしてもそれが浮かぶんだよ。
幼馴染みだってウザけりゃ離れていくのに、2人でいつまでもくっついて楽しそうにしてる。誰が見てたって関係ない。恋人かいたって関係ない。自分達と自分達の周りに対する絶対的な信頼とか見えてたんだよ。誰に何を言われようが曲げない幼馴染みを超えた絆みたいな。だいぶ表情がくさいけどさ。
でもそれを超えたいんだよ、俺は。悠穂じゃなくて、何かあった時は俺を1番に思い浮かぶような存在でいたいんだよ」
あまり話したくなかったのか、かなり小さな声だったけどハッキリとした口調だった。



