「唯」
目を開けると實が目の前にいて、髪をかきあげてくれる。
「もう20時だから。明日仕事だろ」
うっすらと開けた視界の中で片肘ついた實が優しく笑ってる。
少し手を伸ばしてみたら、きゅっと指を絡ますように握って額にキスをした。
まただ…とドキドキし始めて「甘い…」と呟くと「当然だろ」と返ってきた。
「…恥ずかしいよ」
「慣れろ」
「慣れない…」
「まだこんなもんじゃないだろ」
そう言って、あたしを起こして長いキスをした。
「風呂は?」
「…入る前に寝ちゃった」
「入る?とりあえず飯行く?うちで作ってもいいけど」
1人暮らしが長い實は結構料理も上手で手際もよくて美味しい。
實の手料理も久しぶりに食べたいし昨日は外食だったから「おうちご飯で」とお願いした。
「じゃあ風呂入ってきたら?その間に何か作っとく」
はい、と差し出された手を掴むと立たせてくれて、今までなかった行動にまたドキドキする。
「タオルとかわかるよな?」
「うん、お借りします」
「どうぞ」
そのまま脱衣場に向かってドアを閉めて、大きく息を吐く。
本当に緊張する。
距離感もなにもかも緊張する。
昨日はお酒が入っていたから感じなかったけど、こんな感じだったっけ?ってすごく思う。
お風呂はお湯がはられていて、あたしが浸かれるように用意してくれてから起こしてくれてる。
普段は湯なんてはらないって言っていたのに。
こんなに甘くなるなんて聞いてない。
ブクブクと泡を吐いてはドキドキを吐き出す。
今すぐポンちゃんに電話して、いずみんとはどうやってこのドキドキをやり過ごしたのか聞きたいくらい。
とりあえず、實にこのドキドキがバレないようにいつも通りの自分でいられるように頑張ろう!と決めた。
部屋に戻ると手招きされて、指定された場所に座る。
「なに?」
「髪、乾かす」
昨日みたいにしてくれるのか、と座って待ってるとドライヤーをセットしてから髪をほどき、タオルドライしてくれる。
それも雑にするんじゃなくて、ヘアサロンでスタイリストさんがしてくれるように優しく拭いてくれる。
「どうしたの」
「なにが」
「なんでこんなのしてくれるの」
髪をパタパタと軽く叩いて、くしゃくしゃと軽く拭いて櫛を通してくれる。
少しの無言のあと、「なんでかな」と呟いてドライヤーを持ったから、はぐらかされないように取り上げた。
「乾かせないだろ」
「答えてよ」
ドライヤーを抱えて、前を向いたまま待ってると、小さく息を吐いてから「なんでだろうな」と呟いた。
「元々お世話焼きさんなの?」
「まぁ、妹いるしな」
「言ってたね」
「・・・」
「ねえ、またはぐらかしてるでしょ」
ぐぐぐっと後ろに下がって、實の足の間に挟まってみる。
すると頭の上からあからさまな溜め息が落ちてきて、「甘やかしたいのかもな」と言った。
「甘やかす?」
「・・・」
「確かにポンちゃんにもありえないくらい甘えてきたとは思うけど、これ以上甘やかしたらダメ人間になっちゃうよ」
いいの?と聞くと、ふっと小さく笑って「今更だろ」と言った。



