COUNT UP【完】


「唯」
「...っ、はいっ?!」

かなりの緊張感の中、急に話しかけられて飛び上がりながら返事してしまったあたしを見て、「そんな飛び上がる?」と声を出して笑ってくれると緊張がほぐれる。

「先に荷物置いて、母親の職場に置いてるバイク取りに行くから」
「お母さんバイク乗れるの?!」
「いや、親父が乗れる」
「じゃあ、お父さんがお母さんを乗せて職場までってこと?」
「だな」
「え〜素敵ー!仲良しー!」

まだお会いしたことのない實のご両親の話が「仲良くバイクに乗っている」なんて聞いただけで夫婦円満なことが伝わる。
それをさらりと言っちゃう息子もきっと愛情いっぱいで育ったに違いない。
なんだか色んな想像するだけで嬉しくなる。

「唯んとこも仲いいだろ」

理想の夫婦像だからねぇと言うのはやめて「そうだね」とだけ返した。

なんだかんだと話してるうちに實の住むマンションの前。
とりあえず車は公園の駐車場に置いて荷物を下ろして部屋に向かう。

實は就職して1年後にはマンションに引っ越した。
ハイツは壁が薄くて外の音がダイレクトに聞こえるし、部屋で音楽を聴くのも音量に気を遣うと言って、引っ越し費用が溜まってから更新月を待ってすぐに引っ越した。

駅から少し歩くけど会社には近くて便利だと満足してるらしい。
マンションだとちゃんとした駐車場もあってバイク置き場も気にしなくていいとも言っていた。

「とりあえず、その辺置いてて。俺、バイクと乗り換えてくるけどどうする?」
「どうするって?」
「待っててくれてもいいし、一緒にきていいし。しんどいならシャワー浴びて寝ててもいいし」

体調の気を遣ってくれるんだ…と思うとなんだか恥ずかしい。
そんなに疲れてるように見えたのか、と顔が熱くなる。
熱くなった理由はそれだけじゃないけれど。

久しぶりにバイクに乗りたいなぁ…と車の中では思っていたけど、身体は少し休めたい。
眠気がすごくてできれば今すぐ寝てしまいたい。
ちょっと考えて、鍵を持って待ってくれてる實に「待ってていい?」と聞くと「わかってる」と笑われてしまった。

「眠そうだし、へっぴり越しだし。シャワー浴びて寝てろ」

行ってくると言って出て行った實の足音が消えるまで見送って、とりあえず使い慣れたお風呂へ向かう。
へっぴり越しなんて別に言葉にしなくたっていい。
なにが原因かってわかってて言われる私のこの恥ずかしさ。
楽しそうに笑う實の顔。

なんだか本当に恋人になったんだなって今更ながらに実感する。
友達の時にはなかった距離感と遠慮なく注がれる甘さと優しさと温もり。
愛されてるんだなっていうのが全身で感じることができる。

「…恥ずかしい」

その甘さを思い出して、すごくすごく恥ずかしくなる。
思い出して恥ずかしいとか實にバレたら絶対に面白がられるから言ったりしないけど、長い期間の友達関係から恋人になるというのは今までと違う自分を見せることで、それがすごく恥ずかしく感じる。

ドキドキして、今までどうしてきたか思い出せないくらい、實の甘い空気に包まれる。

「帰ってくるまでに寝ちゃおう」

今帰ってきたらきっとテンパってバカみたいなあたしを見せて面白がられる。
それも意地悪じゃなくて甘く優しい顔で。

あたしだけドキドキするのも癪だから!とシャワーを浴びるのはやめてベッドに寝転んだ。
ベッドに寝転んだら實の匂いがして、またきゅんとなったけど疲れの方が勝ってすぐに睡魔に襲われた。