「唯」
夢心地の中、實の声が聞こえてゆっくりと手を伸ばす。
どこにいるのかわからないけど、姿を探す。
手の届く範囲まで探ってみたけど見つからない。
もう傍にはいないのかもしれない。
諦めて手を元に戻し、布団にもう一度くるまって寝ようとすると「起きろって言ってるだろ」と布団を捲られた。
「やだぁ」
「やだじゃねぇ。服着ろ。チェックアウトまでもうすぐだから」
チェックアウトの時間がもうすぐって寝すぎじゃない?!と体を起こすとなにも着ていない 上半身がさらけ出されていて慌てて足元のシーツをあてた。
「ざっとシャワー浴びてこい。俺んちでまた風呂入ればいいし」
さらっとそう言って片付けを続ける實に寝起きなのもあったけど、とりあえず頷いてベッドから出るときに渡されたシャツをボタンを3個だけ適当に止めて軽く羽織った。
昨日ディナーに行く前に用意していたお風呂の準備と今朝着る用に掛けていた服をクローゼットから流れ作業のように拾いながらシャワールームに入る。
「だるい...眠い...腰いたい...」
服をバサバサと落とし、シャツのボタンを外してそれも脱ぎっぱなし。
髪もバサバサと広げて、素っ裸で鏡の前に立つ。
洗面台に手をついて、すごいブサイクな顔なんだろうなと覚悟して覗くように鏡を見たら、目の下にクマ、ボサボサの髪、崩れたメイクでずるずるの自分が写っていて、こんな姿を實は見ていたのかと思うと落ち込む。
これならまだすっぴんの方がいくらかマシ。
長い溜息が出た。
「お前、遅い」
シャワーから出てすぐに怒られる。
自分で言うのもなんだけど、昨日のいちゃいちゃは夢だったんじゃないかって思うくらい静かに怒ってる。
怒ってるから、とりあえず黙って帰り支度をする。
ちょこちょこと広げては片付けてをしていたから昨日の服を片すだけでよかった。
片付けをして、時間を確認して、チェックアウト時間余裕の20分前。
あれから一言も話さず部屋を出た。
お会計はすでに済ましていたからラウンジで飲んだお酒代を払ってホテルを出ると天気はいい。
でも体はだるくて、駅まで向かう道のりが辛い。
今日は休みだしゆっくり過ごせる。
数駅離れた最寄り駅でようやく「こっち」と實が話しかけてきた。
ついていくと駅の駐車場があり、白のワンボックスに手を伸ばすとロック解除され、後部座席を開けた。
「實の車?」
「うちの親の車な。とりあえず、借り物だから返しに行く。乗って」
そう言いながら持っていた荷物を載せてくれて、運転席に回る前に助手席のドアを開けて乗せてくれた。
慣れた手つきで車を発進させて、バイクの時と同じようにゆっくりと走らせる。
急停車急発進なんて皆無。
車を運転してもポンちゃんの運転とは全然違う。
「實は車の運転も優しいんだね」
「元々優しいだろ」
「...そだね」
なんだか隣に座ってるだけで緊張する。
今までバイクだったから後ろ姿だった。
バイクの時はくっついて至近距離で会話だってするのに、なぜか車に乗せてもらっている方が緊張する。
密室だからか、静かすぎて呼吸さえ聞こえてしまいそうだからか、運転する姿を初めて見るからなのか、横顔がかっこいいと思ってしまってるからなのか、もう思い当たる理由がありすぎて分からないけど、すごくドキドキする。
ぐっと力が入って呼吸することすら難しい。



