COUNT UP【完】


缶を持ったまま、隣からの視線を感じながら答える。
テレビの音がなんだかうるさく感じるくらい、次に實が発する言葉を神経細めて待ってる。
待っててもうまく交わせる自信ないけど。

「唯」

低い声。
怒ってるよね〜と思いながら、一瞬だけ目を合わせて逸らす。
傍にいてはマズイと席を立とうとしても捕まる。
当然だけど。

「言えないの〜!」
「なんで」
「言いたくないの〜!」
「なんで」
「でないと...」
「でないと?」
「・・・」

持っていた缶を取られて、逃げる術なし。
かといって向かい合って話し合う体制でもない。

これはきっと實からの無言の圧力。
空気に耐えられなくなって話し出すのをきっと待ってるに違いない。

「唯」
「・・・」
「唯、お前今日変だぞ」
「實に言われたくないよ」
「・・・」
「・・・」

空気が悪くなって、隣から大きく深い溜息。
實が少し動いただけなのに体がビクリとする。

意地張って、こじらせてるのはわかってる。
今までの経験上、こうする方がいい。
でも今までの経験上、この溜息の時は絶対よくない。
だけど、八方塞がりで動けない。

無言の時間は続く。
實はまた溜息吐いて、ソファから離れていってしまった。
空いた缶を捨てて、トイレに入る。

一連を見て、ソファの背もたれに全体重を預けて、後悔に苛まれる。
いつも通りだと終わりがくる。
良くしようと思えば、拗れる。
良かれの行動がうまく噛み合わない。
うまくいかない。

トイレから出てきたら冷蔵庫のお酒を取りに行って、ソファじゃなくベッドへ座った。

ほら、離れた。
離れてしまった。
わかってるのに上手にできなくて、自分でそうしたのに傍に来てくれない寂しさで泣きそうになる。
結局、實への決意もこんな場面になってしまえば簡単に崩れてしまう。

「みのる...」
「なに?」
「みのる」
「なに」
「...こっち来て」
「お前が来い」
「やだ。實が来て」

ソファ越しに呼んでみるけど、實は動かない。
当然だけど、目も合わせてくれない。
これじゃ前の恋愛となにも変わらない。
このままじゃ本当に離れてしまう。

泣きそうになる感情を抑えて、ソファから立ち上がり、實が寝転んでいるベッドへ近づく。
頭元で止まると「邪魔、テレビ見えない」と冷たく言われてしまう。

「傍にいたい...」
「...どうぞ」

實が手を伸ばしてくれて、声は優しいのに真顔で、本当に傍にいてもいいのかと思っちゃうけど、黙って寄り添うように寝転んだ。

くっついても怒らないし、頭の上では缶の音がするからお酒を飲んでるんだろう。
缶を置いて、手持ち無沙汰になると實が結ったおだんごを触ったり、頭を撫でたりして、それの繰り返し。

あんなに意地張って、溜息まで吐かせたのにまだ傍にいてくれるなんて、本当に優しすぎる。
それに怒ったり問い詰めたりもしない。