COUNT UP【完】


部屋に入る前に指は離れて、戻ったらすぐにホテルの冷蔵庫に飲み物を入れる實を通り過ぎて、バッグや靴を脱いで、とりあえず部屋着を持ってバスルームに入る。
髪は崩れていないからこのまま。
お酒飲むって言ってたからメイクもこのままにして、汗もかいてないから、とりあえず服を脱いでグレーのスウェットとTシャツを来る。

部屋に戻ると實も着替え終えたところでスーツバッグに直していた。
後ろ姿だったけど、昨日から思っていたことがある。

「...ペアルックみたいだな」

真顔で先に言われてしまった。
實もグレーのスウェットで着つぶしてるのか腰からずれていて下着が見えてる。
「パンツ見えてるよ」と言えば、「お前、肉はみ出してない?」と返されて、人の親切を意地悪で返すなんて知らない!と無視してやった。

服をスーツケースに直して、冷蔵庫からお酒を1本だけ取り出し、ソファに座って先に飲んでやった。

「あ、フライングだろ」
「意地悪言う男なんて待ちませーん」
「本当のことだろ」

鼻で笑われて腹立つと思いながらも、お酒数本を持って隣に座る實を目で追ってた。
きっちりかっちりとしたスーツ姿よりいつも見ているラフな姿の方がときめくのは何故なんだろう。

「はい、今日何回目かの乾杯」

あたしの左隣に座り、右の足をソファに上げて体はあたしの方へ向けて座ってから、缶を開けてあたしの持つ缶へコツンとあてた。

實の好きなハイボールをいつも水のように飲んじゃう。
今日も同じでごくごく飲んでる。
いつも通りなのに、なんだかドキドキする。

「なんだよ」

目があって、それも怪訝な顔で、でもなんだろう...こう...うん、欲目って恐ろしい。

「なんでもなーい」

のどぼとけとか、首すじとか、すっごく色っぽいな〜と思いながら見ていたのがバレないように少しだけ背を向けた。
缶に口付けて飲むふりして、小さく息を吐き出す。

好きだという気持ちに気付いたときはすごくナチュラルだったから、急にドキドキしたりはなかった。
一緒にいる時間の端々で言葉やしぐさ、気遣いとか視線にドキドキすることはあった。
でも今日はなんだか實も朝から変だったし、あたしも変に意識しちゃってよそよそしくなっちゃう。

なによりもあたしの“触れたい欲”が溢れすぎて気を引き締めないと触っちゃいそうになる。

もう何度言い聞かせたかわからない「ベタベタしない!」という自己宣言。
ポンちゃんは本当によく好きにさせてくれてたな...と改めて思う。
彼女でもないのにベタベタして、追いかけまわして、泣きついて。

そんなあたしが傍にいたのにポンちゃんと付き合ってたいずみんもすごい。
あたし1人で色んな人に迷惑を掛けてたんだな〜と今更ながら反省する。
それがわかってて、あたしの傍にいる實が1番すごいけど。

「どうした?」

背後から實の優しい声。
あたしの知らないところでもそんな風に話すんだろうかと考えるだけで妬けちゃう。

嫉妬深い女は嫌われるんだぞ!とまた自分の心に言い聞かせる。

「唯」
「なに?」

嫌な女にはなりたくないな…と思っていたから、少し溜息混じりに返事をした。

「溜息、なに?」
「ちょっと、自己嫌悪と自己顕示欲っていうか」
「なにそれ。そんなことしなきゃいけないことあんの?」
「...あるの」
「俺に言えないこと?」
「言えない」
「なんで?」
「私事だから」

こんな理由で實が納得しないのはわかっているけど、こういうのは彼氏にみせるものでも聞かせるものでもないはずだから、言えるわけない。