なんという恥ずかしさ!!
人の目があるのも忘れて完全に自分の世界に入り込んでた。
これも恋は盲目という言葉のうちに入るんだろうか。いや、「そうだよ」って誰か言ってほしい。
「で、付けてみてどう?」
ありがたいのは動揺せずにいてくれること。
これで二人で赤面してたらきっと顔をあげられない。
まだ恥ずかしくて「似合ってる」と答える。
「見てねぇじゃん」
「さっき見た」
「もっかい見て」
「もっかい見て」なんて意地悪な言葉にゆっくりと顔をあげる。
見てって言ったくせに實はお酒を飲んでいて横顔だった。
並んでいるピアスがよく似合う。
このピアスで間違いなかったと思う自己満足感に浸る。
「お前も飲め」
グラスをあげて、まだ一口しか飲んでいないワインを少し多めに口に含む。
少しでもお酒がまわれば恥ずかしさも紛れるはず。
實が顔をあげてって言ったのにこちらを見ないままグラスをくれたのは気を紛らわせてくれるため。
自分だって恥ずかしかったはずなのに何事もなかったかのように振舞ってくれる。
こういうところが一緒にいて助かるし、どんなことがあっても實が傍にいてくれたら大丈夫なんじゃないかって思える。
「いつもありがとう」
「なに急に」
ふっと笑って立ち上がると「オーダー頼むわ」と席を離れた。
どこ行くの?と聞く間もなく離れていくからワインを飲み干して、自分のもオーダーする。
本当にこの入り込んじゃう癖を直さなきゃいけない。
数時間前まで頑張れていたのに、好きだって気持ちが強く前に出てくると抑えきれない。
「また失敗する…」
こうして重くなって辛くさせるんだぞ!と気を引き締める。
こういうのも可愛いと言われるのは最初だけって身を持って学習してる。
いくら優しい實だってずっと甘えていたら愛想尽かされちゃう。
放置されたケースを直して、深呼吸をする。
もう大人なんだから冷静に恋愛ができるようにならなきゃいけない。
もう若くないんだから!と言い聞かせて、タイミングよく来たドリンクを受け取る。
理想の恋愛像って恋人ができるたびに考えるけど、なかなか理想通りにいくものでもない。
いずみんみたいに落ち着いていたら穏やかに過ごせるんだろうけど、なんせ何事にもいちいち反応しちゃうから、あとになって“またできなかった”と思う事の方が多い。
今回は昨日から夕方まで上手にできたはずなのに一体どこで狂ってしまったのか。
自分を変えるというのはなかなか難しい。
ポンちゃんはあたしが傍にいたから、並大抵のことは軽くこなしちゃうし、あたし以上の我が儘や甘えはきっといずみんは言わない。
だから、穏やかないずみんとのお付き合いはすごく安定していてイラつくこともないだろうし、どんなことにも冷静に話もできる。
意味不明なコミュニケーションもないだろうし、愚痴だって毎日聞かされることもない。
その代わりにやってきた實は今でこそ軽くあしらうし聞き流すこともしょっちゅうあるけど、最初は大変だったと思う。
實の希望といえども疲れたに違いない。
あのポンちゃんですら1日一緒にいれば疲れた顔で帰っていく。
考えれば考えるほど、恋愛像とかそういう次元の話じゃないことが見えてくる。
「…がんばろ」
「なにを?」
「…なんでもない」
戻ってきた實に尋ねられたけど、さりげなく交わした。
席に戻るとすぐにハイボールを飲んで、少しだけもたれてゆっくりと息を吐いた。
疲れたとかそういう感じじゃなくて、どうやらようやく一息ついたような表情。
肩の力も抜けて、服はスーツだけど雰囲気はいつもの實で、たぶんお酒のおかげなんだろう。



