COUNT UP【完】


もうヤダ。
まだ2回しか会ったことない人が急に家に来て一緒に朝ご飯食べてる。

ポンちゃんはまだしも、家に上げたママもおかしい。
どうかしてる。

「じゃあ俺、先に行くわ」

ケイコさん毎朝ありがとう、と言って車のキーを持って立ち上がる。

「ポンちゃん先に行くの?!」
「だって俺、一限からだもん」

話しながらもポンちゃんの動きは止まらない。
鞄も提げて行く気満々。

「あたしも行く!」
「ユイまだ飯食ってるじゃん」
「今すぐ準備する!!」

キス魔と一緒にいるのは嫌だ!
そう思ったから飲んでたコーヒーを置いて目玉焼きの半分を残して立ち上がった。だけど、それから先はキス魔の手によって止められる。

「ちゃんと全部食え」
「でもっ」
「大学までなら俺が送ってやる」

にやりと笑うキス魔にあたしの顔は引き攣る。
助けを求めようとポンちゃんを見たけど、「ミノル、よろしくな」と手を挙げて、あたしを放って行ってしまった。

ポンちゃんに置いていかれたことで放心状態になったあたしにキス魔は「残り食べろよ」と頭を撫でる。
触んないでよ!と言おうとしたら「ごちそうさまでした」と席を立たれてしまって言い損ねた。

ポンちゃんも行っちゃったんだから早く帰ってよ、と心の中で喋ってると、後ろから頭の上に手が乗っかった。

「30分後に迎えに来るから用意してろ」

迎えに来る…?
意味のわかんない発言にあたしの口が開きっ放しになってる間、ママは「ありがとう」と笑顔でお礼言っちゃうし、キス魔は「いえ、ご馳走さまでした」と頭を提げて、あたしを見ずにリビングを出ようとドアから半分体を出した所で振り向いた。

「そうだ、今日はスカートじゃなくてパンツ穿けよ」
「迎えに来なくても一人で行けるよ!」

あたしの言葉も虚しくキス魔は帰っていった。

それからは必死に準備してメイクも超薄く仕上げて、20分後には家を出た。
玄関を開けて、まず目に入ったのは黒のビッグスクーター。
そして、それに跨がるキス魔。

「どうしているの!?」

携帯をいじっていたキス魔があたしの声に顔を上げると「思ったより早ぇ」と笑った。

「30分後って言ったじゃん!」
「お前、20分で出てきたからいいだろ」
「そういう意味じゃないよ!」
「うるさいよ。近所迷惑だから」

キス魔は「お前の考えること透けて見えるわ」と笑いながらビッグスクーターから降りてハンドルにかけてたヘルメットをはずす。
玄関前でわなわなと震えるあたしの前にそれを差し出す。

「……なに?」
「メット」
「は?」
「かぶれ」

為されるがままにヘルメットをかぶせられると、今度は腕を引かれて乗るように促す。