COUNT UP【完】



「實もシャワー浴びる?」

ソファに座ったままの實に声を掛けてみるけど無反応。
これは寝てるな!と確信して寝顔を撮るために携帯を持って、そ~っと近付く。
前に回ってシャッターを押すけど、無反応。
これは撮れる!!と斜めから撮ったカメラ音でうっすらと目を開けてしまった。

「・・・」

相当寝入ってたのか目は開けても反応がない。
もう一回撮ってやろうとカメラを構えたら、「やめろ」と取り上げられてしまう。

「返してー」
「写真撮ったろ」
「撮った」
「消せ」
「やだ」
「消せ」
「やだ。これ永久保存版だから」

数秒の沈黙のあと、携帯を逃がすのも疲れたのか盛大な溜息を吐きながら「好きにしろ」と返してくれた。

「消せとか言って、自分はあたしの寝顔撮ってたりしてない~?」

ちょっとは動揺させたくていったのに、ふんっと笑って何も言わずにバスルームに消えた。
なんか悔しい。
實を動揺させようと思ってもそっとやちょっと当たり前のことではぴくりともしてくれない。

「ま、最終兵器あるからいっか!」

今日はサプライズがあるのを實は知らない。
あたしから初めてする大きなサプライズ。
といってもありふれているけど、その為に明日は休みを取ってもらった。

「どんな反応するかな...」

思わず呟いてしまう。
實も傍にいないし、1人でにやけながらドライヤーで髪を乾かし始めた。

「なにニヤけてんの」

後ろからドライヤーを取られて大きな手が髪をすくう。

「乾かしてくれるの?」
「そう」

無表情だけど髪をすくっては風をあてて優しく乾かしてくれる。

「...元カノにもしてあげた?」
「これはしてないな」
「ふーん」
「なに、気になんの?」
「うん、なる」

鏡越しに真っ直ぐ目を合わせて伝えるとすぐ逸らされる。
何も聞こえなかったように目を逸らし、たまに目を合わせて様子を見てる。

「なに?」
「いや、束縛したい派なのかと思って」
「それはない。それはない」
「なんで2回言った?」

そんな大切なこと?と笑う。
大切なことというよりポリシーみたいなもの。
どんなに嫉妬してもこれだけは守ってきたもの。

「束縛はしないって決めてるの」
「...悠穂はがんじがらめにしてきたのに?」
「ポンちゃんを引き合いに出さないで」

なんでもかんでもポンちゃんと比較されたら勝るものなんてきっと無い。
ポンちゃんには迷惑をかけていたと今ならよくわかる。
その時は気付かないし考えたことだってなかった。
何度も言うけど、ポンちゃんは隣にいて当たり前だった。

「束縛はしたって意味ないの」
「ほぉ...」
「實だって嫌でしょ?」
「まぁな」

そう、男の人はみんな束縛は嫌うし、しちゃうと離れてしまう。
しなくたって離れることもあるけど。

「だから、浮気しないでね」

こういう時こそ自信持って言わなきゃいけないのに言えない自分が悔しい。

ドライヤーが止まって、ブラッシングをしてくれる間、気持ちよくて目を閉じていた。

「それかして」

後ろからあたしの左手首に付いてるヘアゴムをさすから渡すと器用に後れ毛も出しておだんごに結った。

「器用だねー!なんで、おだんご?」
「好きだから」

無言で言うところが面白くて笑うけど、一切恥ずかしがりもせずドライヤーを渡された。
乾かせということなんだろう。

場所を譲ってすでに半乾きの髪を乾かす。
今まで好きな人の髪を乾かすことは何度もあったけど、實だとなんだか指や手のひらが緊張する。
昨日も同じことをしたのに少し意識するだけでこんなにも感覚が研ぎ澄まされる。

好きな人に触れる時のようなドキドキ感とかキュンキュンする感じではなくて、ドクドクと脈打つ感じ。
髪に触れているだけなのに触れる指先も、そこから流れるように心臓や脳へも痺れてはドクドクと脈打つ。
こんな感覚、今まで感じたことなかった。

ドライヤーのスイッチを切り、小さく息を吐いて気持ちを整える。
こんな気持ちになってることはまだ知られたくない。
恥ずかしくて、きっと普通じゃいられなくなる。