COUNT UP【完】


「泣きすぎて今日疲れたし。ミッキー、宏ちゃん、ゆっくん連れて帰ってね」

えー!?と言っていたけど、無視して實を探す。

「後ろにいるよ」

宏ちゃんが指さして教えてくれると「指差すな」と不機嫌そうな声。
實もそろそろ限界なはず。
服の裾を掴んで「帰ろっか?」と聞いてみたけど、目敏いゆっくんは「裾クイやばいじゃーん!!」って騒いだから返事がもらえなかった。
そのあとミッキーに引っ張られて帰っていったのを黙ってみてた。

「唯ちゃーーん、實ばいばーーい!!」

うるさいゆっくんとミッキーの隣を歩く宏ちゃんと一瞬だけ手を挙げて笑ってくれたミッキーに手を振ってから實と視線を合わせた。
それから、引き出物を持っていない手を握った。

「疲れたでしょ」
「...なんで」
「ゆっくん苦手でしょ?眉間のシワがすごいよ」

目の周り筋肉痛になりそ~って言うと「なんだそれ」ってバカにされそうだから堪えた。

「お前もだろ」

あたし?と自分を指さして首を傾げると「足、痛いんだろ」と言われてしまった。

「バレた?隠してたのになー!もうね。立ちっぱなしでふくらはぎも足の裏も靴擦れもヤバいの~」

靴が合わなくて最初から気にはなっていたけど、気にする暇なんて一秒たりともなかったから痛みもそんなに感じなかったけど、気が抜けると意識がそこに集中して痛くなってくる。

「...おんぶかな?」
「はぁ?」
「それともお姫さま抱っこかな?」
「ホテルに部屋取っててよかったな」

普段笑わないくせにこういう時に限って意地悪に笑う。
性格ひん曲がりすぎてる。
でも本当にホテルに部屋を取っててくれてよかった。この足じゃ電車乗って帰れない。

ゆっくん達を送るために外に出ていたから、ホテル内に戻り、エレベーターに乗り込んだ。
おっきい水ぶくれになってるんだろうな...と夜のお風呂の激痛を思い出して涙が出そうなくらい悲しくなる。お風呂好きには水ぶくれや怪我は致命的。

實は言葉では心配してるような言葉をかけてくれないけど、外からエントランスに入る間も、エレベーターの中でも、エレベーターから降りて部屋までの間も、ずっとあたしの歩くペースに合わせてくれた。
先に行っていいよって言ったけど、なんの返事も素振りもしてくれなかった。

實が部屋の鍵を開けてくれてる間にパンプスを脱ぐ。

「開放感ハンパない...」
「早く入れ」

部屋の中からドアを開けて待っててくれた。

「なになにー?優しい〜」
「着替えてこい」

完全にスルーされてスーツのジャケットを脱いだ實はネクタイも外してソファに座った。
こっちを見ようともしないから早く着替えてこいっていう無言の圧力だと受け取って、朝着てたワンピースを持ってバスルームに入った。
ついでに綺麗にセットした髪も解いて、サラッと汗も流してしまおう!とドレスを脱いでストッキングを脱ぐと踵部分であっただろう場所が赤く滲んでいた。

實が早く着替えてこいって言ってたのはこれが原因だったとようやく気付いた。
言葉にしてくれたらもっとわかりやすいのに何も言わないから全然気付けない。

「伝わりづらいなぁ、もう」

無言で無表情の優しさがじんわり嬉しくて、にやにやした。