「顔が、目が開かないぃぃ」
「唯ちゃん泣きすぎね」
「そう言うゆっくんだって号泣だったじゃん」
「唯ちゃんのが移ったんだよ!」
「人のせいにしないで」
あれから、ケーキカットの時は安定してた涙腺は披露宴の終盤にさしかかるとともに崩壊してしまい、ビデオ撮影を實に任せて泣き崩れてた。
両親への手紙なんて前が見えなくて、ポンちゃんがいずみんをフォローする姿を見ていたら、もうそれだけで嬉しいやら、感動やらでハンカチも2枚目に変えた。
もう始まる前から耐えきれないことがわかっていたから、實にビデオを預けたときに椅子を近くで並べて座った。
お行儀が悪いのは重々承知の上だったけど、なんだか傍にいたかった。
と、理由はどうあれ結果的に傍にいって正解だった。
もうどうにもならないくらい泣いてるあたしの背中をずっとさすってくれてて、片手にビデオ、片手にあたしで大変だったと思う。
あの感動的なシーンを全く共有することができなかったに違いない。
会場をあとにするとき、両家のご両親に苦笑されて、でもすごくお礼をもらった。
ポンちゃんといずみんには最初こそ爆笑されたけど、いずみんは少し涙を浮かべて「ありがとう」と言ってくれた。
みんなで集合写真を撮ろうと言ったゆっくんに慌ててポーチからファンデーションを出して整えてくれた宏ちゃんはもう笑いを通り越して呆れてた。
「實、ごめんね」
「なにが」
「泣きっぱなしで...」
「想定内だから」
ドライな實に反対隣にいたミッキーが頭を撫でてくれる。
それを見て、宏ちゃんもあたしを見て微笑んでくれる。
「お前、触りすぎだろ。宏奈んとこ行ってろよ」
「なんか妹みたいでな」
「わかるー!俺もたまに千珠と話してる気分になるもん」
「ゆっくんに言われたくないよ!」
「實くんってば妬いてんの?昨日ようやくお付き合い始めたらしいよ」
宏ちゃんがサラッと報告するとミッキーの手が止まり、ゆっくんの動きが止まって口が開いて、「嘘でしょ?」の一言でまた動き出した。
「え、昨日?」
ゆっくんが目の前に立ち、あたしの両肩を掴んで「昨日なの?」と真剣に聞いてきた。
「昨日なの、ゆっくん」
「マジで言ってる?」
「うん、マジなの」
「...健全なご関係で...?」
「当たり前だろ」
實がゆっくんの頭を叩いてつっこんだら、痛がるゆっくんの頭をなぜか宏ちゃんが撫でてた。
「ねぇ、その話詳しく教えて。これから一旦帰って皆で飲みに行こう!」
ゆっくんは面白いおもちゃを見つけた子供みたいにはしゃぐのをミッキーが止めてくれた。
「来月、みんなで集まるときでいいだろ」
「え、今日でしょ!?今日が1番おもしろいでしょ!!じゃあ、唯ちゃん俺とサシで飲みに行こ」
また両肩を掴まれて、真顔なのに口元を緩めながら言うから「やだよ」と即答してやった。
ゆっくん飲んだら長いし、と言ったら「おっさんじゃねぇし!」って意味不明な否定をしてた。
ゆっくんはお喋りだから、あたしの話を聞いただけで絶対終わらないし、彼女の惚気話も飽きる程聞かされるに違いない。
今の彼女と付き合えることになった時は本当に、本当に、本当に、鬱陶しかった。
電話で喋り倒して、会って同じことを喋り倒して、お酒が入ったら自分がどれだけ彼女を好きなのか延々と喋り倒して、家に帰ったときの疲労感が半端なかった。



