ヘアセットがあったから「先に行ってるね」と声をかけたけど、「おー」と言うだけでこっちを見ることなく部屋を出てきた。
こんな気持ちでポンちゃんの結婚式に参加するつもりじゃなかったけど、今となってはもうそんな事どうでもいい。
「ポンぢゃん~がっごいいーいずみん〜ギレイだよぉぉぉ」
周りがドン引きしてるくらい泣き崩れる。
披露宴会場でドリンクを注ぎにきてくれる人も食事を運んできてくれる人もドン引きで、隣に座っていた實と宏ちゃんがあたしの世話を焼いてくれる。
「唯ちゃん泣きすぎでしょ」
「そういうゆっくんだって泣いてんじゃんー」
「俺は唯ちゃんが泣くからもらっちゃうんだよ!!」
「言い訳だよぉ〜あたしのせいにしないでよぉぉぉ」
二人してテーブル挟んで向かい合ってわんわん泣くのを、冷静派の實とミッキーが冷ややかな目で見てた。
6人掛けテーブルに人数の都合で5人で座ってるのに、實との距離が近いのは、事あるごとに呼びつけるからだと思う。
その気はないんだけど。
「唯、いいかげん泣きやめ」
「うん…」
「とりあえず、迷惑だから食え」
「迷惑って言わないでよぉぉ」
さすがの實も手に負えなくなったのか、隣の宏ちゃんにパスしたのがわかった。
常に涙腺崩壊状態で、何が始まっても感極まるあたしに「泣き顔で写真撮れないからお手洗い行こっか」と宏ちゃんが会場から連れ出した。
宏ちゃんは綺麗で、落ち着いてて、頭も良くて、笑顔が可愛いミッキーと超お似合いの素敵な人。
そんな人があたしの友達で申し訳ない。
最初に声を掛けてくれた時はすごく嬉しかったのを覚えてる。
メイクルームに入ると、宏ちゃんもバッグからメイクポーチを出して、「はい、じっとしてー」とティッシュで涙を拭いてくれる。
「宏ちゃん、ありがとう」
「どういたしまして。悠穂くんの結婚式だから予想はしてたけど、予想以上に泣きすぎ!そんな顔で写真撮らせたくないから全然写真撮れてないよ!?」
「ごめん〜もう感極まって止まらないの...」
「“大好きなポンちゃん”だもんね。わからなくはないけど、それでも泣きすぎ」
自分のメイクポーチからファンデーションとアイシャドウを取り出して、化粧品会社に勤めるプロである宏ちゃんがメイク直しをしてくれる。
いつも優しい宏ちゃん。
そういえば、宏ちゃんも婚約したって實から聞いた。
「宏ちゃんもミッキーとの結婚式はいつなの?」
「あ、うち?うちはまだちゃんと決まってないの。今年か来年には挙げたいねって話してるんだけど」
柔らかい表情で話す宏ちゃんの左手にはダイヤの付いた指輪が光ってる。
ミッキーのことだから“宏奈に似合うモノ”とか言っちゃってるんだと思う。
ミッキーってば冷静で何事もシレッとしちゃうくせに意外とロマンチストなんだよね。
「みんな幸せだなぁ...」
ゆっくんも大学生の彼女(ちなみにミッキーの妹)がいて、たまに連絡とると2ショットの写メを送ってきて、やたらスタンプ飛ばすうえに鬱陶しいくらい惚気られる。
「唯だって實くんいるじゃん。まだ付き合ってないの?」
「昨日、お付き合いすることになったよ」
「そうなんだ〜・・・え?!昨日?!」
「昨日なの〜宏ちゃんメイク直しありがとう!」
真っ赤になってた目も鼻も綺麗にカバーしてくれて、さすがプロの腕は違う。
これを崩さないためにももう泣かない!と決めて立ち上がる。
「宏ちゃん、お手洗い行く?」
「あ、うん。いやいや、昨日なの?」
「昨日なのよ〜!宏ちゃんお手洗い行かないとケーキカット始まっちゃうよ?」
え?うん、でも・・・あ〜待ってて!!と色んな事が巡ってて忙しそうな宏ちゃんを見送ってメイクポーチを片す。
實は大学を卒業しても傍にいてくれたから、交際宣言したところで特に変化はないけど、他の人からすればびっくりすることらしい。
自分の世界と自分以外の世界が交わるのはなかなかギャップが生じる事らしい。
☆
「お待たせ。なんか色々聞きたいことあるんだけど、戻ろう!」
思ったより長居しすぎて会場に戻ると「まもなくケーキカットが始まります」と言われて慌てて席に戻った。
席に着くと心配した様子のポンちゃんといずみんが口パクで「大丈夫?」と言ってくれてて、大きな丸を作ったら二人して少し肩の力が抜けた様子だった。
「プロの手で時間掛けただけあって完璧だね!」
ゆっくんが少し意地悪言ったのを「唯は元々可愛いだろ」と意外なところからフォローが来て、一瞬全員の動きが止まった。
「ミッキー浮気?」
「はぁ?メイクなんてスキルだけじゃないだろ」
ふ〜ん...と、ゆっくんが疑いの目を向けながら呟くけど、あたしも驚いた。
ナチュラルイケボとはこういう事なのか。
さすがのあたしもドキッとさせられた。
ミッキーに褒められるなんて大学の4年間で1度もなかったし、社交辞令でも可愛いだなんて嬉しい。
嬉しいな〜とニヤニヤしてたら隣から舌打ちが聞こえる。
それを無視してカメラを準備しているとケーキカットが始まった。
「やばい、泣きそう...」
「唯、耐えて〜」
「唯ちゃんが泣いたら俺つられちゃうからマジやめてね」
「泣くところがわかんねぇ」
「實、うるさいっ!」
写真を撮るのに最前列を皆で陣取って、あたしはハンディカムでひたすら撮影。
直視しながらモニター確認するのはなかなか忙しい。
きっとすごいうるさいビデオになってる。
モニターから目を離して、2人を見る。
幸せいっぱいで、ケーキを食べさせあって、口についたケーキを取ってあげたり、笑いあったり、ケーキナイフを持つ手も寄り添う肩も、2人の笑顔も、祝福する皆も、この2人だから、この2人が心から幸せだから皆が幸せになる。
本当に素敵な式。
素敵な二人をお祝いすることができて、最高に幸せ。



