「2番目?」
「そう。通りそう?」
「...大丈夫だろ」
耳に触れて少し引っ張るようにホールを確認すると簡単に通してくれる。
自分で通して傷にしなくて済んでよかった。
鏡で付いてるのを確認して、鏡越しに見える實のピアスを見て、今度は同じ耳に付いてることにニヤける。
「そんなに嬉しいか?」
真横から呆れ顔でため息と一緒に吐き出すように言うから「嬉しくないの?」と聞いてみたけど無反応。
こういうのは人によるし共有したいとは思わないけど、それはそれでいい。
あたしが嬉しいんだから問題ない。
あたしの耳に付いてるピアスを触りながら鏡越しに目を合わせて話すのは真後ろにいるのに変な感じだなーと思いながらも、鏡越しに話しかける。
「お揃いにするの嫌いならごめんね。でもあたしは嬉しいから外さないでね」
耳に触れる手に自分の手を重ねたところで、きっと嫌なのは変わらないだろうけど一応謝っておいた。
謝っておけば一応彼女の頼みだし、嫌々ながらでも付けてくれるだろうと思っていたけど、目を大きくして、「は?」と言われてしまった。
「あ、そんなに嫌?」
「いや、そうじゃなくて」
「?」
「え、それなの?」
「なにが?」
なんだかよくわからないけど、大きな溜息吐いてあたしの肩に頭を置いて俯いてしまった。
どうしたんだろう。
よくわからないけど、そのまま抱きしめられたから落ち着くまで待っていよう。
そう思っていたんだけど、頭が近くにあって鏡越しにつむじが見えると押したくなっちゃって、つむじ押したり、髪をくしゃくしゃにしたり、撫でてみたり、自分の髪を結ってるゴムで結っちゃおうかと髪を束ねてたら止められた。
「やめろ」
「ごめん」
笑うとようやく顔をあげて、今まで見たことのない困った顔で笑う實がいた。
初めての顔で、思わずくるりと回って見てみたけど、その時にはすでに無表情だった。
「なんだ」
「珍しい顔をしてたから見たくて」
「あっそ」
残念だな...と思ったけど見れないものはしかたない。
部屋に戻ろうとしたら、洗面台に挟まれるように止められて、そのまま流れるようにキスをした。
洗面台に置いていたはずの手はあたしの腰に回されて、ぎゅっとくっつく。
1回離れて目が合うと、また長く口付けられる。
「...實?」
離れて目が合い、名前を呼ぶと俯いて長い息を吐き、「走ってくる」と洗面所を出た。
数秒後には「1時間後に戻る」と部屋を出ていってしまった。
「どうした...?」
自由奔放すぎて、すでに部屋にいない實が答えてくれるわけもなく、話し相手もいなくなった。
とりあえず準備を始めて、バッグからドレスや小物を取り出して用意をしてると、床に落ちているピアスを見つけてしまった。
昨日、實の左耳から外した元カノから貰ったらしいピアス。
大きな石のマットな黒で光ることのない立て爪のピアス。
あたしが付け替えたゴールドのピアスは小さいけど、光沢があって小さいながらも存在感ばっちりのフープピアス。
きっと、元カノは實に合わせて買ったものなんだと思う。
實の彼女になった人だから、きっとあたしと正反対で派手な人なんだろう。
想像でしかないけれど、たまに見かける傍にいる女の子たちはそういう人が多い。
どうしてあたしなのか、いまだに不思議ではあるけど、もう手放せない。
自分の付けてたピアスに付け替えただけで嬉しくなるくらい、自分の物だと堂々と公表したい。
ピアスを拾って、くるりと回して全体を見て、少し考えたけどゴミ箱へ捨てた。
このピアスを探したりするだろうか…思い出として持っていたかったりするんだろうか...なんて考えたけど、そんなの知ったこっちゃない。
あたしの中でスッキリしたところで、1時間後に帰ってくるまでダラダラとテレビを見ることにした。



