朝食をゆっくり食べ過ぎ、ポンちゃんのお母さんが呼びに来るまで話してて、今日の新郎新婦は慌てて出て行った。
あたしもホテルにお願いしていたから、ゆっくり構える實を急かして部屋に戻った。
「昼から用意すりゃ間に合うだろ」
「でも部屋の片付けとか着替え前にシャワー浴びたいじゃん」
「部屋でゆっくりする時間は?」
「するよ!」
「じゃあ焦って動くなよ」
「女の子は何かと時間がかかるんですー」
「女の子ね」
そこ復唱するとこ?と思ったけど放って片付けに集中する。
といっても昨日何も出さずに寝たから今日の支度に必要なモノだけ出していればいいんだけど。
「焦って帰ってきたけど時間持て余さねぇ?」
「まぁ…軽く3時間くらいはヒマになるね」
「ヤるか」
「しないよ」
バカじゃないの、と言いながら鏡台にメイクポーチやベースメイク用ポーチを並べて顔を上げると鏡越しに目が合った。
「なに?」
「楽しそうだな」
「そうかな?」
そうかな?とか言いながら口元が緩んでるのは自分でもわかる。
だって、大好きなポンちゃんの結婚式なんだから楽しみに決まってる。
嬉しいことしかない。
「唯」
「なぁに?」
振り返ると直接目が合って、無表情に思わず真顔になったのが自分でもわかった。
あたしの表情筋はなんとも忙しい。
ポンちゃんが離れていってからの實は意地悪な顔か無表情のどちらかで、ごくたまーに普通に笑う。
ポンちゃんが離れてからの2年間、傍にいて気付いた。
他にも自意識過剰とかじゃなくて、よく目が合う。
素直に言うと、よく見られてる。
視線を感じるなーと思ったら目が合ったり、気が付いたら近くにいたり。
今も同じで、鏡越しで目が合ってから直接目が合うまで見られてたんだと思う。
「どうしたの?」
無言の無表情に問いかけてみても無反応。
なんだよ、と思いながら近付くと、昨日付け替えたピアスが太陽の光でキラッと光った。
ピアスに触れて、實を見て、あたしの物だとニンマリしてしまって、それを隠すために離れて洗面所に向かう。
自分の右耳のピアスにも触れてさらにニヤニヤしちゃう。
お揃いのピアス。
片耳だけでもあたしの物っていうシルシ。
悔しいから伝えないけど、實への気持ちに気付いてからずっと欲しかった、あたしだけのモノっていうシルシ。
傍にいるけど、気持ちは同じだけどそれを言葉で伝える勇気が無くて昨日まで曖昧な関係を続けていた。
ワガママだけど、どうすれば周りの牽制になるのか考えてた。
幸い、互いに勤め始めても関係は変わることなく、毎日連絡取って、休日には会って、恋人じゃないけど恋人みたいな2年間を過ごしてきた。
過ごす時間の中で女性の人の影が見えなかったから今日まで一緒にいれたけれど、もし少しでも変わっていたらこんな風に言葉にし合うこともなかったし、傍にもいないと思う。
「唯」
声をかけられて思考から戻ってくるとドアにもたれてこちらを見ていた。
「あ、使う?」
「使わない」
「どうしたの」
「戻ってこないから」
そんなに長い時間いたかなー?なんて思いながら、右耳のピアスを外す。
「外すのか?」
「うん、式のときはパールのピアスを付けるから場所移動させるの」
ピアスを外して左耳の2番目に付け替える。
久しぶりに付けるからうまく通らなくて、鏡越しに「手伝って」と手招きして呼ぶ。
「これね、ホールがあるから通してほしいの」
はい、とピアスを渡してから髪を耳にかけて首を傾ける。
ピアスを渡したら黙って受け取ってくれたから付けてくれるんだろう。
無表情にうんともすんとも言わない實の顔を鏡越しに見てた。



