「唯、風呂入って来たんだろ」
「なんで知ってんの」
「悠穂に聞いた」
携帯片手にバスルームから出てきながらそう言ってソファーにドカリと座った。
夕飯をポンちゃんの実家であたしも一緒にとって、家を出る前にお風呂に入ってきて今はスッピンだからわかるんだろうけど、ポンちゃんも別にそういうの聞かれて教える必要はないと思う。
あたしのプライバシーって一体。
まぁ、あたし達に...主にあたしにプライバシーなんて最初から存在しなかったけど。
「まぁ、うん。そだね」
「早く着替えてこい」
「ん?」
「部屋着。明日朝早いんだろ、寝るぞ」
そうだね、と出しておいた部屋着を持ってバスルームに向かう。
歯磨きも済ましてからドライヤー片手にバスルームを出る。
ポンちゃんが實に協力的なのはよくわかった。
この作戦に協力したのもあたし達の関係にケリをつける為だって言われたら優しいポンちゃんなら絶対協力する。
なんだかんだ一番最初から今まで實の思い通りに進んでるような気がして、それが唯一気に食わない。
なにもかもが今更だらけだけど。
「なんでドライヤー?」
「濡れた髪のままベッドに入ったらダメ」
コンセントの届く位置まで移動させて髪を乾かしてあげる。
普段、こんなこと絶対しないだろうから抵抗されると思ったけど案外大人しくしていてすぐに終わった。
「元カノにもしてもらった?」
「多分」
「多分なの?」
「そんなこといちいち覚えてない」
「でも多分なのね」
「お前は?悠穂にしてやった?」
「うん、した」
「そっちの方がお前の何倍も腹立つね」
「ポンちゃんに嫉妬しないで」
「それは無理だな」
コードを抜いて片付けていると背後から引き寄せられ、膝抱っこされる。
そして首元に顔を埋めて「多分、一生嫉妬する」と呟いた。
「なんで?」
「お前と悠穂の時間に俺はいつまでも追いつけない。なんせ22年だからな」
「でも気持ちの形は違うよ」
「わかってる」
「ポンちゃんはいずみんと結婚するし。ていうか、こないだ籍入れたし」
「わかってる」
「實が好きだって言ったのに?」
「・・・」
「そこは無視なんだ」
変なのと笑うと、ぎゅううううううっと力一杯抱きしめられて痛いし苦しいしで「痛いよ!」と背中をバシバシ何度も叩いてやった。
本気でしんどいし。
「お前、解禁したからって安易に好き好き言うのやめろ」
「なんで?」
「俺の決意を揺るがすな」
意味がわからなくて黙ったままでいると「わからなくていい」と言われ、そのまま担がれるように持ち上げられてベッドに放り投げられた。
結構上から落とされて跳ね返りで頭を打ってむち打ちになる勢いだった。
もうなんでもいいけど、扱いが雑過ぎる。
「寝ろ」
「寝るよ。てか、扱いが雑」
「そうか?」
扱いが雑だったり、言い方がキツかったりするけど、こうして掛け布団をかけてくれるような優しいところもあって、隣に寝転ぶまでの實をずっと見てた。
前にもこういうのシチュエーションがあったのを思い出した。
以前、限界くるほど眠過ぎて實の家でとうとう寝ちゃったとき、ちゃんとベッドまで運んでくれてこうして布団を掛けてくれたことがあった。
シャワーを済ました實がベッドに入ってくる時に目が覚めて薄っすらとした意識の中、實のことを見てた。
「なに見てんだよ」
「そりゃ見るでしょ」
「お前、こないだ起きてただろ」
「いつの事?」
「目ぇ開けてただろ」
「起きて…ないけど、薄っすらと見てた。今はガン見だけど」
「それを起きてるって言うんだよ」
はぁ…と呆れたのか疲れるのか溜息吐いてあたしを腕枕し、ギュッとくっつくくらい抱き締めた。
目を閉じると体が近くて、徐々に温もりを感じて、それがまた嬉しくて思わず口元が緩む。
「唯」
「んー?」
「・・・」
呼んだくせに何も言わない實を無視していると「早く寝ろ」と言われた。
言われなくても寝るけど、と思いながらもなんだか手持ち無沙汰な片手を實の手の上に乗せて、「あたしも腕回していい?」と聞いてみた。
「ダメ」
「なんで」
「なんでも。いいから寝ろ」
「はいはい、寝るよ」
ダメって言われたけど、手を實の背中に回してくっついてやった。
そして長い息のあと現実と夢の狭間を行ったり来たりしてた。
「ダメっつっただろ」
小声で呟いたあと、あたしの頭にキスを落として、頭を撫でたり髪を触ったりしていた。
途中までは覚えているけど時間が遅かったのもあり、すぐに寝入ってしまった。



