COUNT UP【完】


ソファーから立ち上がり、實は背が高いからあたしは膝立ちで同じ視線に合わせた。
スカートを踏まないようにちゃんとして、視線を合わせる。

「強くないし…ていうか、誰かのせいで打たれ強くはなったけど、その誰かのおかげでポンちゃんがいなくなっても全然寂しくなかったの。
今も考えるだけでポンちゃんが真横にいない寂しさを感じるけど、なぜかこんな時も一緒に居てくれる人がいるから全然寂しくないの」

いつもの實に戻ったから、あたしもいつものあたしに戻る。
可愛くないけど、いつもの素直なあたしに。

實の両頬に触れてから左耳のピアスに触れる。
以前、ポンちゃんが“アレは元カノから貰ったもの”と言っていた。

「このピアス、本当に元カノから貰った物?」
「だな」
「本当なんだ」

無言でピアスを外しにかかるあたしの手を止めることなく、むしろ首を動かして取りやすくしてくれる。

「これは外してね」
「いいけど」
「で、空いたここには…これね」

自分の右耳のピアスを外し、それを傍に置いていたバッグの中から簡易の消毒コットンを出して拭き、實の空いた左耳のピアス穴に通した。

「うん、いいね」
「で?」

で?と真顔で言うのは想定内。
元カノから貰ったらしいピアスはテーブルの上に置いた。

「とりあえず、この一部はあたしの物だね」
「だけ?ここだけ?」
「實、うるさい」
「お前なー」

伸びてきた手を拒否して、キスをする。
多分、あたしから初めてするキスだと思う。
もしかしたら今日が最初で最後かもしれないけど。

「…なに、照れてんの?」


珍しく目は合わせないし、ほのかに耳が赤い…ような気がする。
まぁ、そんなことどうでもよくて、左耳に付けたフープのゴールドピアスに触れてニヤニヤしてた。

「なにニヤけてんだよ」
「だって實が照れてるから」
「照れてねー」
「別にどっちでもいいよ」

居心地悪そうな顔をする實の頬に手を添えて顔を眺めて、そして抱きしめた。

「實が好きだよ」
「…知ってる」

どうしてこんなに自信満々で返事が出来るんだろう…と思いながらも優しく笑ってくれるから、一瞬だけ見せたその顔がいつもの自信に満ちた顔になっても、あたしがした可愛い触れるだけのキスなんて比べものにならないくらい深いキスをされても受け入れてしまう。これが實だって、これからも傍にいたい人だって思う。

「ねぇ」
「なに」

キスが止まない中、あたしは抱えられてベッドの上に寝転んだ。
一瞬離れて、その先を拒否しようとしたら止められて、また長いキスに戻る。

「…長いよ」
「別にその先をしたいって言ってないだろ。したいけど」
「しないよ」
「しないのかよ。まぁいいよ、今日は一緒に眠れるだけで」

無表情のまま額にキスをして離れていき、バッグから下着とスウエットを取り出してあっさりとバスルームへ向かう。
どこまで自由なのかと思うけど、これも實だから仕方ない。
この先を拒否したのは自分だし。
あたしもバッグの中を整理しようとベッドから起き上がる。

結局、あたしの告白を聞いた實は満足してバスルームに入り、さらっと言ったプロポーズはなかった事のように流れた。
流れたのか流したのか、あたしからの告白を聞きたいだけのフリなのかわからないけど、それはそれでいい。

流しちゃうほどでも“結婚”の言葉が出ただけで十分。
それくらい長く傍に居てくれるらしいから。