「なぁ」
「・・・」
「なんで無視?」
「・・・なに?」
「無視すんな」
「してないよ。返事が遅れただけだし」
「なんの嫌がらせだよ。なんでそんな不機嫌なの」
「・・・」

なんの嫌がらせ…はこっちの台詞だと思う。
なんでこういう状況なのか、ポンちゃんも一緒に説明してほしいくらい。

「また無視か」

呆れた溜息を吐く實を横目に混乱気味のあたしの頭の中。
付き合ってもいない男女がどうして同じ部屋で一夜を過ごさなきゃいけないのか不思議で仕方が無い。
あたし、ポンちゃんに何か嫌がることでもしたんだろうか。

「あ、わかった。同室だからだろ。いいじゃん、ツインだし」
「そういう問題じゃないよ」
「悠穂も気が利くな」
「あたし、何かしたかな…」
「何もしてねぇよ」
「じゃあなんで實とあたしが同室なの」
「俺が頼んだから?」

原因はコイツなのか。
それなら理解出来る。
慣れとは怖いもので、もうこんな事でびっくりしなくなった自分が逆に怖い。

ソファーに座りバッグの中から携帯を取り出し、ポンちゃんを呼び出そうと試みる。
實の口添えでもさすがにこれはダメだと思う。

「おーい、悠穂に連絡するんじゃないだろうな」
「するでしょ。あと、一部屋くらい空いてるだろうからフロントにもする」
 
指は止めずにポンちゃんにコールをしていると「やめろっつーの」と携帯を取り上げられた。
そして、電源の切る音。

「なんで切るの」
「いや、考えてみ?明日はアイツらの結婚式だぞ?ゆっくり寝かせてやれよ。それに真っ最中だったら邪魔だろ」

携帯直せと言ったくせにバッグに自分で直した實はあたしの前に同じように座った。
真っ最中はおいといても、ごもっともな言葉で言いくるめられた気がする。

明日はポンちゃんといずみんの結婚式。
あれから3年経つ今日、5年の交際を経て晴れて結婚する。

先日、入籍する時にポンちゃんの方の証人欄にあたしの名前を書いた。
もう一人は實の名前。
両親でなくてもいいのかと聞いたらあたし達に頼みたいと言ってくれて、かなり嬉しかった。

實と夜ご飯を食べに行っていた時で、いずみんと二人で来てくれた時は驚いたし場所がここでいいのか?!ってなったけど、あたしが書いていいと言われた時は嬉し過ぎてニヤニヤした。
ニヤニヤし過ぎて隣から「顔が気持ち悪い」と言われたくらいだった。

今思うとこれまでの流れから仕組まれてたかなーとも思う。