「ポンちゃんと久しぶりだよね」

メニューを見ながら嬉しさが滲み出まくるあたしに「俺が忙しかったからなー」と答えながら呼び出しベルを押した。

「あたしまだ決めてないよ」
「和風パスタだろ?」
「え?」
「ユイは悩むフリして結局和風パスタ選ぶんだよ、いつも」
「そうなの?」
「そうなの」

そうなんだ、と普段の自分では意識してないところを言われて驚く。

確かにそう言われてみたらそうなのかもしれない。
そんなこと覚えてるポンちゃんはすごいなぁってまた感心する。

「ポンちゃん、就活はどう?」
「んー、俺の勘だと次の会社は内定貰えると思う」
「そうなの?!決まればいいね」
「ほんとだよ。早くすっきりしてぇ」
「大丈夫だよ!次は絶対決まるよ!」
「ユイがそう言うと8割くらいで本当になるから決まってほしいな」

決まるよ!と自信を持って言うあたしにポンちゃんが笑ってくれる。
久しぶりに見るポンちゃんの笑顔にあたしも笑顔になる。

小さい頃から一緒にいて、お互いのことはなんでも知ってる。
ポンちゃんが辛いときにどうしてあげればいいのか、どうやって共有すればいいのか全部わかってる。
一番居心地のいい関係。

「ユイはどうなの?」
「あたしは就活しないよ」
「そういうことじゃないよ。しなきゃいけないよ。じゃなくて、ミノルとどうなのって話」

お昼にも話したよ、と呟くと「今話題のネタだからな」と笑われた。

笑い事じゃないし、ネタにされるあたしは本気で返答に困ってる。
でもミノルと友達であたしとミノルを引き合わせた張本人だから話せば何かくれるんじゃないかと思った。
アドバイスとか、ミノルの気持ちとか、そういう色々。

「ポンちゃんはミノルから聞いてるんじゃないの?」
「聞いてないから聞くんだよ」

ニコニコ笑っていつものポンちゃん。
忙しかったから本当に聞いてないんだろう。

「別に、なにもないよ」
「なにもないの?」
「ないよ」
「キスした仲なのに?」
「そんなのポンちゃんだって一緒じゃん」

それは子供の頃の話だろ、と呆れた顔をした。

あたしとポンちゃんは互いにファーストキスの相手。
小さい頃から一緒だったから自然だと思う。
ママ達曰く、あたしからポンちゃんに迫ったそう。

でも本当にキスをした仲だからどうこうって話じゃない。
今までポンちゃんがしてくれてたことをミノルがしてくれるようになっただけ。
他はキスされたくらいで何も変わらない。

「ユイさ、もうミノルのこと嫌いじゃないだろ?」
「嫌いではない」
「好きでもない?」

ポンちゃんもそこが聞きたいんだよね、と核心突いた質問に思う。
話す前にあたしがきょろきょろするから「なに探してんの」と笑われた。

「だって聞かれたら嫌じゃん!」と答えてから本題に入った。

「好きか嫌いかって聞かれるとね、好きなの。ポンちゃんほどじゃないけど」
「うん」
「でもね、それが恋愛感情として好きなのかって聞かれたら違うと思う」
「うん」
「ポンちゃんだって違うと思うでしょ?」
「いや、俺に聞かれても」

そうだよね、とはっきりしない自分の気持ちにもやもやする。

「ユイはなにが気になるの?」

優しく聞いてくれるポンちゃん。
ミノルと違うところであたしが大好きなところ。
あたしの感情を読んでゆっくり話しかけてくれる。

「あたし、男の人だったら誰よりもポンちゃんが好きだと思う」
「それ何回も聞いた。ユイが俺をどれだけ好きなのかは俺が一番知ってるから」

あたしのくどい愛情を受け入れてくれるポンちゃんに「えへへ」と笑うと「あー…」と顔を手で隠しながら言う。
少しして顔を見せたポンちゃんは「ほんと可愛いなー」と言ってくれた。