【超短編 19】カウント

 俺は彼女の死体を見下ろしてどうしてこんな死に方をしたのか考えた。ガスを咥えて死ぬこともできたはずだ。部屋から飛び降りても死ねる高さだった。失意の中で警察の尋問を受けているときもそのことばかりが頭の中で交錯し、最終的に出てきた答えは
「僕が殺しました」
だった。しかし、それが俺の口から出たときはもう俺が自由の身になった後だった。
 それからただ適当に生きていくのも面白くなくなった。そのとき、たまたま目に入ったのが今のジムだった。
 ただそれだけだ。
 フォー、ファイブ。
 カウントが続いた。
 そうだ。俺がやっている戦いはテンカウントだ。まだ終わっていない。俺はまだ首を絞めてもいないし、飛び降りてもいない。ただ相手のパンチをもろに食らっただけだ。
 シックス、セブン、エイト。
 拳を固めてチャンピオンの前に向き合うとカウントが止まった。それでいい。気取ったカウントなんて聞きたくない。一発で沈めてやる。
 ボクシングにもキャメルクラッチがあればいいのにな。