何も言葉が出ない。

「…………」

立ち竦むだけの私に、自転車屋さんも顔を上げる。

「……ビ、ビッチなんかじゃ…だって私、つきあったこともない…………」

「あ、ごめん、本当にビッチだとは思ってないから――」

自転車屋さんは、慌てて私の顔を覗き込む。
いきなり、ビッチ呼ばわりされたことや、誰かに恨みを買っていることや、こんなことを書かれるような扱いをされている人間ということが露呈してしまったこと。

押し込めていた感情が湧きあがってしまって、冷めた心に何かが入ってきて、目頭が熱くて、震える唇を噛む。
泣きたくないし、泣くつもりもないのに……両手の甲で、自転車屋さんから顔を隠した。

「ごめん。泣かないで。悪かった」

自転車屋さんが悪いんじゃないのに。
彼は、仕事で汚れた手をTシャツで拭き、俯く私の頭を軽く撫でた。


「今日のお代も昨日のお代もいらないから、ちょっと待ってて。……で、奥の冷蔵庫にジュース入ってるから、選んで飲んでいいよ」

「そ、そんな、悪いです…」

断りながらしゃくりあげる私に、自転車屋さんは「高校生泣かしたオッサンのお詫びだから」と苦笑いしていた。