小さな冷蔵庫の前。
二人掛けのソファ。
パインジュースを手渡される。

「家の人、心配してない?」

「してるかな。どうだろ」

「………」

小篠さんは、もう一本パインジュースを取り出して、プルトップを開けてその場で飲み始めた。
持って帰らなきゃいけないと思っていたから、私もその場で開けて飲む。
もう少し一緒にいてもいいのかな。
そう言われてはいないけど、許してもらえたようで嬉しかった。

さわやかな酸味が口の中に広がる。
この味は、私の一生の思い出になるだろう。
初恋の、初めてキスの味なのだから。

コンクリートの壁。床。
鼠色という言葉が似合う、大きな業務用机。そこに、積み重なった書類。
アイスグレーの小さな冷蔵庫。
そして二人掛けのソファ。
私はそこに座っている。

また、パインジュースをこくりと喉に流し込む。
立ちながらもう飲み終えた小篠さんは、缶をデスクに置いた。

そして、私をじっと見下ろす。