居場所がよく分からずに、少し遠くから見ていたら、俯いていたその人か顔を上げて無表情で手招きをしてきた。

全然笑顔ないし、怖いな……。
おそるおそる店内に入りその人に近づくと、すっと大きなてのひらを出してきた。

「これだな。押しピン。」

「えっ…」

「踏んだんじゃないスかね。」

「そうですか…」


押しピンか……。

自転車屋さんは無言で作業を始めた。
私は肩に掛けていた鞄を掛け直しながら、店内の自転車を見たりして終わるのを待った。


「これで大丈夫。」

「ありがとうございました」

「700円です。」

「あ、はい……」


財布財布。鞄の中をごそごそと探すが、いつもの場所に財布がない。

「あれっ…?ちょ、ちょっと待ってください」

財布、学校に忘れてきた?

自転車屋さんは微動だにせず目の前に立っている。そして、無表情。
背が高いために威圧感もすごくて、財布を探す手も集中できてないが、いくら探してもやっぱりない。

どうしよう……。

「すみません、あの、お財布忘れちゃって、お金取りに帰ってもいいですか……?」

「……………」

お兄さんは、表情を変えることなく私を見ている。