暗がりの道に止めた自転車。
小篠さんは私が乗るのを待ってくれるらしい。
何にも言わずに、傍に立って。

蔦がびっしりと張られたフェンスに、高い塀。
花壇はあるが、誰からも死角になり、囲われた緑の中には小篠さんと二人。

「小篠さん……今日は特別な時間をありがとう」

「そんな大したことじゃないだろ」

小篠さんは、そっけなく言ったけれど、それでも優しげに目を細めた。
薄暗い街灯一本の明かりで見える、小篠さんの表情に、やっぱり私はドキドキさせられる。
私にはこんな感情を残されて、小篠さんには何も残せてないのが妬ましい。

「……小篠さん」

夢は抱かないから。
この前みたいにして。

それを言いたいけれど、また無碍にされると思うと言葉にはできない。
夕陽の落ちた空の下、名残惜しく名前を呼ぶことしか、できない。