近所にある自転車屋さんは、商店街を抜け出た大通り沿いにあった。
私が生まれる前からあるお店で、おじちゃんとおばちゃんが営んでいた。

『コシノサイクル』と書かれたえんじ色の看板の下をくぐって軒下に自転車をとめた。
整然と並べられた自転車の隙間を通って店の奥へと進む。

「すいません、パンクしたみたいで…」

声を出しても返事がない。

おじさんがいるはずなんだけど…
……誰も出てこない。
奥にはいるのかな。


「すいませーん!!」

「はい。パンク?」

「!?」


背後に、無愛想な背の高い男性が立っていた。20代……30代だろうか?
雰囲気やファッションは若い気がする。

無造作な短い黒髪に無精ひげ、ラフなTシャツ、ダメージのあるデニムに、履き古した生成のコンバースがくたびれてて、かわいい……。

「…………」

その人は、何も言わず私を見下ろし、私の赤い自転車を店内に入れ、タイヤに触れ始めた。


すごく優しく触るなあ。


……突っ立って、見てていいのかな…。
もう修理に入ってるのかな?