航さんが頬と首筋にくれたキス。
押し当てただけで、何も跡形のないキス。

体の内側が熱くなって、肌が心地よくぞわりと逆立ち、もっと深いところまで来てほしくなった時、航さんの唇が首から離れた。


「ごめん。気をつけて、帰って」

急に突き放された気がして、航さんに尋ねる。

「あの、また、来てもいい?」

航さんは、一息ついてから

「誰にも言わないならね」

と言った。




言わない。
絶対言わない。


店を出て、赤い自転車のペダルをぐっと漕いだ。
スピードを感じながら、暗くなった街を駆け抜ける。

私だけ、焚付けられてても、いい。
うまくいかない現実の逃避だとしても、いい。

触れられている時のあの感覚は、航さんにしかもらえない。


その晩は、閉店後の店の続きを自由に空想した。

首筋から、服の中へ侵入される妄想を浮かべる。
あの逞しく、浅黒い腕が、私を自由にする妄想を。


誰にも言えない秘密のはじまり。