「あ、また……泣かないでよ。泣かれると、つらいんだ」

「ご、ごめんなさい……」

ずっと空気として過ごしてきたのに――こんな風に優しくされると、涙が……。
両腕で泣き顔を隠し、涙を止めるように唇をかみしめる。

「っ……ひっ……」

航さんが、私の腕をひいて、泣き顔が晒される。
ぽろぽろとこぼれる涙と頬に、航さんの指が当てられて離れる。

向かい合って、……次は、航さんの唇が私の頬に当てられた。

頬にキス。


彼の吐息が頬をくすぐったかと思った後は、苦しいほど抱きしめてくれた。

航さんの手が、私の背中を強く撫でる。
慰めと……ほんの少し漏れている男の欲情とに、現実ではないような浮遊感を覚えた。
シャッターが半分降ろされた、閉店した店内で並ぶ自転車が目に焼き付いて、目を閉じる。

航さんの唇が首筋を辿り、彼の腕を強く掴んだ。
苦しいのに、この苦しさが気持ちいいなんて、航さんはわかってくれるかなぁ。