「ふっ……、こうづきく、かわい」
笑いを堪え切れずにくすくす笑う私を、神月くんはちょっと怒ったように睨み付けた。
「不意打ちは駄目です!ずるいですよ!」
「ふふっ、だ、だって」
こんな風に狼狽えてる神月くんって貴重だ。
いつか絶対またやってやろうと、心のなかでひっそり企む。
「……知らないからな、もう」
「え?わっ」
急にぐいっと腕をひかれて、体が傾いた。
すると、腰に腕を回されてしっかりと抱きとめられる。
何事かと神月くんの顔を見ると、思ったより近くにあってピントが合わなかった。
あ、キスされる。
そう思ったのとほぼ同時に、唇にふわっとあたたかいものが触れた。
ゆっくり離れていったかと思えば、もう一度。
これじゃ仕返しにならないよ、神月くん。
そう思ったものの、甘いキスにくらくらするのでやっぱりこれは仕返しなのかと思い直す。
「――やべ、止まんね」
「あ……」
いつも優しくて見るからに好青年な神月くんが、一瞬だけ雄の顔になったような気がした。
真面目な彼の敬語が崩れるのと同時に、何かのスイッチが入ったみたいに。
さっきとは違う理由で、心臓が音を立て始める。もう神月くんにドキドキさせられっぱなしだ。
「……ねえ神月くん」
「ん……、なに?」
「もう一度、好きって言って?」
その言葉を禁止した時が懐かしい。
あの頃は言われる度に困っていたのに、今ではこんなにも言ってほしい言葉。
「……俺はいつでも言ってきたつもりなんですけどね」
違う言葉で。態度で。


