「……抱き締めたい、です」
自分の口から漏れたのはそんな台詞だった。
まるで神月くんみたいだ。"好き"という言葉を使わずに"好き"だと伝える。
「え……」
「神月くんを、抱き締めたい」
ああ、神月くんの顔が見たい。今どんな顔してる?何を考えてる?
でも駄目だ。涙で前が見えない。それにきっと泣きすぎて不細工だから、顔を上げるのも恥ずかしい。
お願い、伝わっていて。
すると神月くんが、一歩後ろへ下がった。
え、と思って恐る恐る顔を上げてみると、神月くんは両手を広げていた。
「……どうぞ?」
照れたような声でそう言った彼は、耳まで赤く染まっていて、少し難しい顔をしていて、私をじっと見つめていた。
受け入れて、くれるの?
私のこと全部まるごと、その腕の中に抱え込んでくれる?
抱き締めることを許してくれる?
「……っ」
ぽろぽろと、目から零れ落ちた滴が顎先から地面へと落ちる。
情けなくても格好悪くてもいい。神月くんには、全部さらけ出そうって決めたから。
足を踏み出して、神月くんの腕の中に飛び込んだ。
背中に腕を回すと、神月くんもしっかりと抱き締め返してくれた。
やっとだね、やっと通じ合えたねってお互いが言うみたいに、ぎゅううっと腕に力を込める。
「佐野さん……」
神月くんの甘い声が脳に響く。
待たせてごめんね。ずっと待っていてくれてありがとう。
少しでも伝わればいいと、私も神月くんの名前を呼んだ。
温かい体温に包まれて、涙腺がさらに大変なことになったけれど、そんなことはどうでもよくなってしまう程幸せな気持ちになった。


