「っはあ、はあ、」
しんどい。
自転車で全力疾走なんて久しぶりにした。
額に汗がにじむ。もう夏だ、と宗ちゃんが言ってたのを思い出した。
自宅のマンションの前に、座り込んでいる人を見つけた。
暗くても誰だかわかる。何度だって見て来た。
向こうも私に気が付いたようで、立ち上がってこっちを見た。
さっきまで一緒にいたのに、何故か久しぶりに会ったような感覚になる。私が緊張しているからだろうか。
自転車を降りて、マンションの前に停めた。
神月くんはその場から動かない。私が一歩ずつ、神月くんへと近付いていく。
「……」
「……」
何も言わない。時間が流れる。
風が、2人の間を吹き抜けていく。
神月くんの顔も少し緊張しているように見える。
私のせいだな、とぼんやり思う。
神月くんの目には私が映されている。私も、彼から目を離さない。
なんだか、すごく切ない。
胸がぎゅうっと痛んだ。
想いが溢れ出してしまう、と思った。
こんな時に。
言いたいこと、伝えたいことが山ほどあるのに。
よりによってこんな時に、気持ちばかりが先走って、喉につかえて言葉が出ない。
いや、こんな時だから、か。
堪えきれずに溢れてしまった気持ちは、涙になった。
止めようとする間もなく次々と、ただただひたすらに溢れ出てくる。
「え!さ、佐野さん」
焦ったような声が降ってくる。
少し開いていた2人の距離が、今度は神月くんによって縮められた。
「佐野さん、どうしました……?」
思わずすぐそばにいる神月くんの服の裾を掴んだ。
届いた。
手を伸ばせば、ちゃんと。


