最近新しく追加した連絡先の電話番号を開いて、発信ボタンを押した。
はあ、と息を吐き出して、胸に手を当ててみる。
……すごく緊張する。
心臓がドキドキとうるさい。
不安な気持ちもある。だけどもう、今更だって思われても、もう遅いって言われても、どうしても伝えたくなってしまったから。
この気持ちに嘘をついて心の中に閉じ込めてしまったら、きっと一生後悔するから。
だから、正直になる。
「……はい」
「あ、神月くん……。あの、私。佐野です」
「知ってます」
初めて聞く、電話越しの神月くんの声。
いつもより低く、落ち着いているように聞こえる。
「今、どこ……?」
「佐野さんこそ、今どこですか?まだ店にいますか?」
「私のことはいいから、神月くんがどこにいるか知りたいんだけど」
「え、っと……どうかしたんですか」
「会いたいって言ってるの!」
……言ってしまった。キレ気味で返してどうする自分。
これじゃただの八つ当たりだ。
電話越しの神月くんの息を飲む気配が伝わってくる。びっくりしてるんだろうな、と思う。
「あの……、実は俺、足が勝手に佐野さんの家の方向に向いて……。今その辺に」
「!すぐ行くから待ってて!」
ブチっと通話を切って、自転車に手をかけた。
会いたい。会いたい。
神月くんに会いたい。
ペダルを漕ぐ足にいつもより力が入る。風になびく髪の毛が鬱陶しい。赤信号が恨めしい。
神月くんのこととなると、私はこんなにもいつもと違う。


