「あいつがどんな気持ちでお前のそばにおったんか、よく考えや。不安でしょうがなかったと思うで」
好きだと言い続けていても、いつ振り向いてもらえるかわからない。そもそも振り向いてもらえるのかもわからない。そんな状況の中で、神月くんはずっと私のことを考えてくれていた。
もし他に好きな人が出来たら。好きだと言った翌日に違う人と付き合っていたら。ある日突然もう顔も見たくないと言われたら。
私が神月くんの立場だったら、きっとそんなことを考えてしまうに違いない。
それで毎日不安で、いつか自分の想いは報われるのか、誰にもわからなくて。
私、何してるんだろう。
好きだと気付いたのに。好きになったのに。
いつまで彼をそんな気持ちにさせておくつもりなんだろう。
「俺の言った通りやったな」
「え?」
「お前は王子のこと好きになるって」
宗ちゃんには、私の気持ちなんてお見通しらしい。まだ好きになったことも言ってないのに。
さすが、長い間一緒に働いているだけあるなあと、感心してしまった。
「……ありがとう宗ちゃん」
「いいからはよ上がれや。行かなあかん場所あるんやろ」
「うん」
お疲れ様、と言って、宗ちゃんに手を振った。
宗ちゃんも笑って手を振ってくれた。それがなんだか頑張れって言われているように感じた。
帰る用意を済ませて、店を出た。
自転車の鍵を開けて、乗る前にポケットの中を探った。
今、無性に神月くんに会いたい。
こんな気持ちに、神月くんもなるのかな。
ずっとこんな風に私のことを考えてくれていたのかな。
……そうだといいな。


