私の言葉を聞きたくないと言うように、何も聞きたくないとでも言うように下を向いて、神月くんが小さな声を出した。
「……最後に、一緒に帰ってくれませんか」
「さ、いごって」
呆然と神月くんを見上げた。
いつも私を見つめてくれていた目が、今は合わない。
最後って。これっきりってこと?どうして?
もう好きじゃない?
あんなに私のこと、好きだったのに——。
「……!!」
今、何考えた?
自分で自分の思考を疑った。
ああ、そうか。私うぬぼれてたんだ。神月くんの優しさに甘えてたんだ。
この人はこんなにも私のことを好きだから、いつまでも待っていてくれるって。
恥ずかしい。消えてしまいたい。
なんて馬鹿で、愚かで、図々しい。
「……いやだ」
「……」
こんな気持ちを持ってしまっていた自分も、最後だなんて言う神月くんも、もう嫌だ。
これから始まるんじゃなかったの?何を分かった気になってたの?
「わかりました」
神月くんが顔を上げた。
何を考えているのか、その表情を見ても全然わからない。
私は神月くんのこと何も知らない。
顔と名前と年齢と、通ってる大学くらいしか。
「……お先に失礼します」
神月くんがぺこっと頭を下げて、荷物を持ってバックルームを出て行った。
足が動かない。こんな時、どうしたらいいかなんて知らない。
追いかけたいのに、もしも拒否されたらと思うと怖くて。
こんな恋愛したことない。胸が押しつぶされそうで、自分のことを嫌いになりそうで、息苦しくて死んでしまいそうな、こんな感情なんて初めてだ。
1人になった空間で、あまりに情けなくて涙が出そうになった。
何をどこで間違ってしまったんだろう。
「おい、お前もさっさと帰れ」
宗ちゃんの声がした。


