夜勤の2人にお疲れ様ですと声をかけて、神月くんと2人でバックルームへと下がった。
順番にタイムカードを押して、ロッカーを開けて制服を脱ぐ。
「……」
「……」
神月くんが、珍しく何も言わない。
2人の時はいつもニコニコ笑いながら話しかけてくれるのに。
やっぱり私のさっきの態度が、まずかった。
絶対にそうだ。
謝りたい。
手を振り払ったのは嫌だったからじゃなくて、むしろその逆。恥ずかしかっただけなんだってわかって欲しい。
「……ごめんなさい」
声が震えないように、喉に力が入る。
神月くんが私を見る。
怒ってる?呆れてる?
いいんですよ、って笑ってくれる?
「……それ、は」
「え?」
顔を上げた。
神月くんは、泣きそうな顔をしていた。
「それは、何に対しての”ごめん”ですか」
「何にって……」
どう言えばいいか迷っていると、神月くんが下唇を噛んだ。
まるで何かと戦っているみたいに、そしてじっと耐えているみたいに、泣きそうな悔しそうな顔。
「俺は、佐野さんを……困らせてますか」
「え、そうじゃなくて!困らせてるのは、私のほうで」
「どうしてですか?……俺に、いい返事が出来ないから、ですか?俺のこと、好きになれないから、ですか?」
違う。ちがうちがうちがう。
そうじゃない。だって私は神月くんのこと、
「あのね、私……!」
「お願いがあります」
「……お願い?」
……嫌だ、怖い。なんで?
いつも全身で、言葉で行動で私に好きだと伝えてきてくれた神月くんが、今は違う。
もう嫌になった?曖昧な態度ばかりで、いい加減私のこと鬱陶しくなった?
だってなんだか、すごく距離を感じる。
まるで私から離れようとしてるみたい。もうやめてしまおうとしてるみたい。


