着替え終わった宗ちゃんがタイムカードを押して、夜勤の人専用の通称”夜勤ノート”のチェックをしている。
店長と直接報告や確認が出来ない夜勤の人たちは、このノートでやり取りをしているのだ。
「へー。昨日の夜中、店の駐車場にヤンキー溜まっとったらしいで。帰り気ぃつけや」
「え、そうなんだ」
「毎年気温が暖かくなったら増えてくんねんなあ。そろそろ夏か」
退勤の前に、神月くんと私で手分けして2つあるレジの金額を確認していく。
もしお金が合わなかった場合に何が原因かを明確にするため、バイトが交代する時間帯に必ずすることだ。
「な、灯里、今度はあそこ行かへん?最近出来たバーみたいなんあるやん」
「10、20、……38、ちょっと宗ちゃん黙ってて」
札束を数えている時に話しかけられたら、何枚まで数えたのかわからなくなってしまってもう一度。なんてのはよくあることだ。
ただ宗ちゃんの場合はわざとこのタイミングで話しかけてくるのだけれど。
「めっちゃ酒の種類多いらしいで。いつ行く?」
「えーっとねえ、100円玉が……」
「来週やったら水曜か金曜やったら」
「よし!合った合った。はい、11時になったから上がります!」
神月くんはどうだろう。
もうひとつのレジを見てみると、神月くんもちょうど数え終わったところだった。
上がろうか、と声をかけようとした時、宗ちゃんが私の肩をぽんと叩いた。
「お前聞いてへんな。……まあええわ、さっきから王子の顔めっちゃ怖いし。お疲れさん」
私にしか聞こえないような小さな声で、宗ちゃんがそう言った。
え?と思い、神月くんの顔をちらっと見る。けれど、こちらを向いていないのでどんな表情なのかはよくわからなかった。


