「……あ、」
やってしまった、ととっさに思った。
神月くんは、少しびっくりしたような顔で私を見た。それから、振り払われた自分の手をゆっくりと見下ろした。
その顔が、色を失くしていくのがわかった。
違う。そんなつもりじゃなかった。
振り払おうとしたわけじゃなくて……。
「……すいません」
神月くんは短くそう言って、私から顔をそらすようにして距離を取った。
拒絶されたと思われたかもしれない。
「こうづきく、」
違う、待って、今のはただ恥ずかしかっただけで。
そう弁解しようとしたところで、店の自動ドアが開いた。
「ざーす」
「そ、宗ちゃん」
時計を見ればもう11時前だった。夜勤の宗ちゃんが出勤してきた。
「おはようこざいます」
神月くんが挨拶をした。
「おー王子。あ?またお前ら2人?」
お前ら暇やなー、と言いたげな顔で、私と神月くんを交互に見る宗ちゃん。
……宗ちゃんには言われたくない。
宗ちゃんは着替えてくるわーと言ってバックルームに入っていった。
そしてもう1人の夜勤の人も、宗ちゃんのすぐ後に出勤してきた。
夜勤はたまに1人の日もあるらしいけれど、基本的には2人体制で働いているらしい。
うちの店では夜勤は男性のみと決まっているので、私は働けないことになっている。
……なんだか、神月くんに謝れる雰囲気じゃなくなってきてしまった。上がってから言おう。


