好き、禁止。


10時になり、ドリンクの補充をするためにウォークインの中に入った。
レジが混んできたら神月くんがブザーで知らせてくれるようになっているので、一気にやってしまおうと気合いを入れる。

「寒……」

ウォークインは寒い。冷蔵庫の部屋なので当たり前だ。
だから私は、バイトの時は1年中長袖の制服を着ている。

ペットボトルの飲み物の、ショーケースの裏側と繋がっていて、ここから減っているところに足していく。
商品棚が斜面になっているので、売れたら勝手に前に押し出されるようになっているのだ。


なるべくラベルの正面が客側を向くように。
綺麗に列が揃うように。
あまり人気のない商品は1列に。
よく売れるのは2列、3列に。
缶コーヒーはへこんでいないか確認すること。
ウォークインの扉は開けっぱなしにしないこと。
ブザーが鳴ったらすぐに駆け付けること。

作業していると、ひとつひとつ、神月くんに教えたことを思い出す。
これを教えた時はどうして?って顔してたな。あれを教えた時は嬉しそうに笑ってたな。
だけど私が1番好きなのは、仕事中の顔じゃなくて……。

ウォークインでの仕事を終えてフロアに戻ると、神月くんはたばこの補充をしていた。
手際よく、確実に。
ああそういえば、それも私が教えたことだった。

「佐野さん、ウォークインは俺に任せてくれたらよかったのに。また風邪ぶり返しますよ」

「大丈夫大丈夫。すぐ終わったから」

「でも」

神月くんが、フロアからは見えないカウンターの下で手を伸ばしてきた。
その温かい手が、さっきまでウォークインで補充をしていた私の手に少し触れた。

「こんなに冷えてますよ」

「!」

指先を包み込むように握られた。

「や、やめて」

その瞬間、思わず神月くんの手を振り払ってしまった。
パシッと乾いた音がやけに大きく響いて耳に残った。