第四章 ”好きっていって”


結局私は、いつから神月くんのことを好きになっていたんだろう。


「佐野さん、おはようございます」

「おっおはよう……!」

やば、声裏返ったかも。


好きなことを認めると、どうしてこんなにも相手がキラキラして見えるんだろう。眩しすぎる。ただでさえ王子なのに。


「もう体調は大丈夫なんですか?」

3日振りに出勤した私を、神月くんはそう言って気遣ってくれた。
そして彼が私の前に立った瞬間、ぶわわっと何かが這い上がってくるような感覚がした。

私の家で抱きしめられた感触。手を握ってくれた感触。いつもより低くて甘い声。
そのどれもが一気に鮮やかに蘇って、たまらずに勢いよく顔を背けてしまった。

「……佐野さん?」

心配そうにこちらを伺う神月くんには申し訳ないけれど、様子がおかしいのは体調のせいじゃない。むしろ体調はすっかりよくなって万全なんです。
……と言いたいのに出来ない。

「だっ、大丈夫!はい、今日もがんばろう!」

目を合わせられないまま、神月くんの横をすり抜けた私。
絶対変に思われた。

……ああもう!普通に振る舞え、自分!

今日はこれから、店長と神月くんの3人で働く。
9時になると店長が帰るので、11時に夜勤の人達が来るまで2人きり。
つまり神月くんとは、6時間一緒にいることになるのに、出だしからこんな調子では先が思いやられる。

……だけど。
仕事中の真剣な横顔が、お客さんに見せる笑顔が、いつもの何倍も格好よく見えてしまって。
どうして今まで普通に会話出来ていたのか、不思議になってしまった。