「そうねえ、まあ付き合いはじめの頃は戸惑ったりもしたけど、結婚してこれだけ長く一緒にいるともう関係ないわよ」

「……そんなものですか」

「年上だろうと年下だろうと、相手のことを、それからいつか生まれてくるかもしれない子供のことを、大切にしてくれる人が一番よ。それが結果として包容力になって、いざというときに守ってくれる存在になるんだから」

「……」

私のことを、大切に……。
笑顔が、浮かぶ。真剣な顔、悲しそうな顔。
どれもが私を想ってのもの。

ぶんぶんと頭を振って、浮かんだものを追い払った。
何考えてるんだろう。

「灯里ちゃんまだ若いんだから。あれこれ余計なこと考え過ぎずに自分の直感に従えばいいのよ」

「で、でももし、その直感が間違ってたら」

「”もしも”ばっかり考えてたら、大事なこと見失っちゃうかもしれないでしょ?そんなの嫌じゃない?」

大事な、こと。ってなんだろう。
もしも何かを見失ってしまったとき、果たして見失ったことに気付くことが出来るのだろうか。
って、もしかしてこれが”あれこれ余計なこと考え過ぎてる”状態だろうか?

「大丈夫よ。灯里ちゃんのことを本当に大切に思ってくれてる人のことは、案外ちゃんと感じ取れるものよ」

そう言い残して、お金の確認を終えた山田さんはバックルームへと下がっていった。
お疲れ様です、と呟いた私は、山田さんが言った言葉の意味を考えていた。