第三章 ”好きになって”


「おはようございまーす……」

「おはよう。ってあれ?佐野さんなんか疲れてない?」

夕方バイトに出勤してきた私を見て、店長がそう言った。

「そんなことないですよ」

ただここのところ、心臓の動きが激しすぎてしんどいだけです。とは言えない。

「あー、灯里ちゃん久しぶり!」

「山田さん!お久しぶりです。私と入れ違いですか?」

「そうそう5時まで!帰って夕飯の支度しなきゃ」

山田さんは、だいたいいつも昼ごろから夕方までのシフトに入るパートさんで、5時に出勤する私と交代することが多い。

「お子さんお元気ですか?」

「元気よー。今年から中学生でもう食欲がね、すごいわ」

「さすが男の子ですねー」

ちょうど客がいないことと、久しぶりに会ったのでついつい無駄話をしてしまうものの、お互いに手は動かしている状態だ。
山田さんは退勤前にレジ金が合っているかの確認をしていて、私は揚げ物や肉まんの廃棄時間をチェックしていく。

「旦那は野球部に入ってほしいみたいだけど、どうするかなー」

山田さんの話し方や声のトーンで、家族の仲がいいことが伝わってくる。
男の子なら中学生でどんどん背も伸びて、あっという間に山田さんの身長を抜かすんだろうなと、微笑ましくなった。

「あ、そういえば山田さんの旦那さんって、山田さんより年下でしたよね」

「そうよー私の3つ下」

「年下って、その、どうですか?」

何を聞いてるんだ私は。
言ってから後悔した。こんなこと聞いてどうするつもりだ自分。

「どうって、結婚してって意味?」

「はあ、まあ、あのやっぱりなんでもないです」

山田さんが不思議そうな顔でこっちを見てくるのがわかる。
ああもう、穴があったら入りたい。