「……わかりました」

神月くんはそう言って頷いた。
それを見て、私はホッとした。これでもう、振り回されないで済む。心を掻き乱されなくて済む。
思えばここ最近、ずっと神月くんのことばかりが頭の中をぐるぐると回っていたような気がする。

「佐野さん」

「はいっ?」

「一緒に帰ってくれて嬉しいです」

「……ん?」

なんだ急に。

「一緒に働けて、こうして一緒に歩けて、幸せです。俺はいつも佐野さんのことばっかり考えてます。これからもそれは変わりません。あと俺、佐野さんの笑顔をもっと見たいって思います。俺だけに向けてほしい。それから、」

「ちょ、ちょ、なに!?いきなりなに!?」

なんだかとても恥ずかしいことをつらつらと言い始めた神月くんを、慌てて制止する。
なんだこの羞恥プレイは。

「……好きって言葉を使わずに好きって伝えようと思って」

「……は!?」

「何回も言いましたよ、諦めませんって」

そう言って神月くんは、再び自転車を押して歩き始めた。
ぽかんとしたままとっさにその場から動けなかった私は、はっと我に返って慌てて彼の後を追う。

「ま、待って!それってどういう……」

「覚悟しててくださいね」

「!」

そう言って神月くんは、それはそれは見事な格好良さで不敵に笑ってみせた。
彼のこの顔には誰も敵わないんじゃないだろうか、と。そう思ってしまうほどだった。