「好き、です」

「……え」

「佐野さんのことが好きなんです」

そう言って、神月くんは下を向いてしまった。多分赤く染まった顔を隠すためなのだろうけれど、まったくの無意味だ。
耳までをしっかり染めている赤は、俯いていても見えている。

仕事中の堂々とした態度が嘘みたい。今はまるで別人だ。
私の言葉を聞くのが、怖い。そんな風に思っているのがわかる。

……本気で意味がわからない。そう思った。
だって神月くんが私を好きになるなんて、ありえない。神月くんに好きになってもらう要素なんて、自分には一つもない。

だけど目の前で恥ずかしそうに下を向いている彼が、嘘をついているようにはとても見えない。
これが何かの罰ゲームだとするなら、相当な演技力だ。



掴まれているほうの手とは逆の手で持っている缶コーヒーは、きっともうぬるくなってしまっている。

神月くんの熱を感じながら、私は必死に返す言葉を探すのだった。